AIは危機の一部でもあり、解決の手段にもなりうる。
この矛盾を、私たちはどう乗り越えるのか?
AIリスクの先に、世界にどんな未来を描けるのだろうか?
人の尊厳を守り、可能性を高めるAIのあり方とは?
29歳のとき史上最年少でボン大学教授に就任し、
2013年に発表した著書『なぜ世界は存在しないのか』が
ベストセラーとなり世界的に注目された
ドイツの哲学者マルクス・ガブリエルに話を聞いた。
生成AIが文章を書き、絵を描き、曲をつくるようになった。
人間にしかできないと思われてきた「創造」という営みが、
今、問い直されている。その延長線上で注目を集めているのが、
「人間中心のAI」という考え方だ。
Human-Centered AI Institute代表として
人間中心のAIのあり方を探ってきた森正弥
(博報堂DYグループCAIO)が、ガブリエル教授に問う。
森 正弥(以下、森):これまで
「人間中心のAI(Human-Centered AI)」というと、
AIを人間にとって使いやすく設計し、
AIが社会に害を与えないようにリスクや倫理を
管理するという意味で語られてきました。
しかし生成AIの登場で、
人間の知的・創造活動そのものが変わりつつあり、
その考え方も更新されるべきだと感じています。
マルクス・ガブリエル(以下、ガブリエル):
AIと人間の関係を考えるうえでまずとらえ直すべきは、
大規模言語モデル(LLM)などのAIは、
人間が問いかけなければ動かないということです。
これまでAIは、
「人間の仕事を代わりにやるもの」と考えられてきました。
文章を書いたり、会社の情報を整理したり、
仕事を効率化したりするための技術だということです。
今でも、
そう考えている人は多いでしょう。
でも、最新のAIはそれだけではありません。
森:その視点はとても重要ですね。
多くのビジネスパーソンは、AIを「仕事を自動化し、
効率化してくれる機械」と考えがちです。
ガブリエル:私は、
人間と巨大な情報処理システムの「あいだ」にあるものが
AIだと考えています。そのシステムには、
半導体、サーバー、技術者、投資、政治、データ、
学習の仕組みなど、あらゆるものが含まれる。
これを「AI複合体」と呼んでいますが、
そもそもAIは人間がかかわらなければ動きません。
大規模言語モデルも、
人間がプロンプトを与えなければ何もしないのです。
森:企業では、AIに戦略を考えさせたり、
広告や文章をつくらせたりすることが増えています。
本当はそこに人間とのやり取りがあり、
人間が考えやひらめきを入力しているのに、
出てきた答えが立派に見えるため、
「AIはすごい」とだけ思ってしまう。
自分が何を入力したのかを忘れてしまう危うさがありますよね。
ガブリエル:AIは、
ドライバーのような道具というより、
ピアノのような「楽器」として考えるとよいでしょう。
人間が弾くから、音楽になる。
プロンプトやAIとのやりとりそのものが、
その人の知性の表れなのです。
AIは人間が入れた言葉や音声、画像、
数字などの中からパターンを見つけ出し、
それを速め、広げ、増幅させていく。
私はこの働きを、
「加速する知性(Accelerated Intelligence)」、
「広げる知性(Augmented Intelligence)」、
「増幅する知性(Amplified Intelligence)」の
頭文字をとって、“3つのA”と呼んでいます。
森:奇遇なことに、
私が所属する博報堂DYグループでも
「人間中心のAI」には”3つのA”が必要だと考えています。
私たちが提唱するのは「自動化(Automation)」、
「拡張(Augmentation)」、
そして「内なる想い(Aspiration)」。
自動化はもちろん欠かせませんが、
もはやそれだけでは十分ではない。
AIによって人間の力を広げ、
社会をよくしたいという想いを引き出すことが
重要なのではないでしょうか。



