2026/8/9

脳は「真のマルチタスク」を実現するために再配線できるとの研究結果

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
脳は「真のマルチタスク」を
 
実現するために再配線
 
できるとの研究結果
 
 
 
 
 

人間の脳は意識的な判断を必要とする

2つの課題に同時並行で取り組む時、

 

複数のタスクを同時処理する

「マルチタスク」ではなく、

 

タスク間を素早く切り替えて

処理していると考えられてきました。

 

アメリカ・ジョージタウン大学の

マキシミリアン・リーゼンフーバー氏や、

リーハイ大学のパトリック・コックス氏らの

研究チームは、

 

1つの課題を長期間練習した時に脳内の

処理経路と同時作業の能力が

どう変わるのかを調べました。

 

 

 

 

前頭前野は状況に応じた判断や思考を担う

柔軟性の高い領域ですが、

 

基本的には一度に1つの判断しか処理できません。

 

意識的な判断を必要とする

2つの課題に同時に取り組むと、

一方から他方へ処理を切り替える必要が生じます。

 

しかし、

同じ課題を繰り返すうちに処理が自動化されれば、

前頭前野を経由せずに知覚から

動作へ直接つながる回路が形成され、

 

別の課題の処理に前頭前野を

使えるようになる可能性があります。

 



そこで研究チームは、

前頭前野が担う判断を長期間の訓練によって

別の脳領域で処理できるようになるのかを調べるため、

 

18~29歳の実験参加者に、

形状の異なる4台の自動車を

混ぜ合わせて作られたグレースケール画像を

「SOVOR」と「ZUPUD」という

架空の2カテゴリに分類させました。

 

この分類がまだ自動化されていない段階では、

まず後頭部から側頭部にかけての視覚領域が

自動車の形状を捉え、

 

次に前頭前野(pFC)がどちらのカテゴリに

属するかを判断する「二段階の処理」が行われます。

 

 

 

参加者はスマートフォンやPCのアプリを使い、

この課題を5~10週間にわたって

3万回以上繰り返しました。

 

そして、訓練を完了して基準を満たした

11人が分析対象となりました。

 



研究チームは、

実験参加者が最初の約6000回の

試行を終えた時点と、

3万回の試行を超えた時点で、

 

2枚の自動車画像を順番に表示し、

同じカテゴリに属するか異なる

カテゴリに属するかを回答させました。

 

また、この課題を行っている時に、

脳内で処理が起きる場所を

機能的磁気共鳴画像法(fMRI)、

処理が起きるタイミングを脳波(EEG)で測定しました。

 

2枚の画像間の形状差を同程度にそろえた上で、

同じカテゴリに属する画像の組み合わせと

異なるカテゴリにまたがる組み合わせを比較し、

 

形状の違いへの反応とカテゴリの

違いへの反応を区別しました。

 
 

その結果、

少なくとも6000回ずつの全5ラウンドに分けて

行ったアプリ上の訓練では、

 

分類の正確性は第1ラウンドから

第2ラウンドにかけて向上した後に頭打ちとなりました。

 

一方、回答時間は第4ラウンドまで短くなり続け、

第4ラウンドと第5ラウンドの間では

有意な差が見られませんでした。

 

また、2枚の自動車の画像が同じカテゴリか

異なるカテゴリかを答える測定用の課題でも、

 

3万回の試行後には正確性を落とすことなく

回答時間が短くなっており、

 

分類の自動化が進んだことを示す

行動上の変化が確認されました。

 



fMRIとEEGによる測定では、

最初の約6000回の試行後

fMRIで腹側後頭側頭皮質(vOTC)が

自動車の物理的な形状の違いに反応していました。

 

vOTCは脳の後方から側頭葉の下部に広がり、

視覚情報から物体を識別する処理に関わる領域です。

 

EEGでは、

形状の違いへの信号が後頭部側に現れた後、

カテゴリを区別する信号が前頭部に現れました。

 

一方、3万回の試行後には、

2枚目の画像が表示されてから

約190ミリ秒後にカテゴリを区別する信号が

後頭部側で現れ、

 

MRIでも左右のvOTCにカテゴリを

区別する活動が確認されました。

 

また、最初の約6000回の試行後に

左前頭部で見られたカテゴリ信号は、

3万回の試行後には有意に弱まっていました。

 



以下の画像では赤色が最初の約6000回の

試行後に形状の違いへ反応した領域、

 

黄色が3万回の試行後にカテゴリの

違いへ反応した領域、

緑色が訓練後にカテゴリへの反応が特に

強まった領域を示しています。

 

赤い円で囲まれているのは右半球のvOTC内で

訓練による変化が確認された領域です。

 

 

 

 

 

訓練によるカテゴリへの反応の増加が

確認された領域は右半球にあったため、

 

研究チームはこの領域を基準に他の脳領域との

活動の連動がどう変化したかを分析しました。

 

その結果、最初の約6000回の試行後と比べて、

3万回の試行後には右半球のvOTCと左側の

前頭前野などとの機能的な結び付きが弱まる一方、

結び付きが強くなっていたと研究チームは報告しています。

 



研究チームはこの結果について、

十分な訓練によって分類判断の中心が

前頭前野からvOTCへ移り、

 

vOTCが運動に関わる領域と連携することで

「前頭前野が一度に1つの判断しか処理できない」

という制約を回避できるようになったと解釈しています。

 



この変化が同時作業の能力に結び付くのかを確かめるため、

実験参加者は画面中央の自動車を分類する課題と、

画面の周辺に表示された左右を赤色と

緑色に塗り分けた円について

赤色がどちら側にあるのかを答える課題に取り組みました。

 

 

 

 

その結果、それぞれの課題を単独で

行った場合と同時に行った場合を比較すると、

3万回の試行後には同時作業による

自動車分類の成績低下が有意に小さくなりました。

 

一方で、長期訓練の対象ではない円の識別課題では、

同時作業時の成績に有意な改善はなかったとのことです。

 



また、右半球のvOTCと前頭前野の機能的な

結び付きが大きく弱まった参加者ほど、

2つの課題を同時に行う能力が大きく向上していました。

 

研究チームの解釈では、

十分に練習した自動車分類が前頭前野を

迂回するようになり、

空いた前頭前野を円の識別に使えたことになります。

 



「前頭前野で2つの課題を効率よく

切り替えられるようになったことが成績向上に

つながった」ということも考えられますが、

 

訓練後にカテゴリを区別する信号が

前頭部より早く後頭部側で現れたことや、

fMRIでvOTCの活動が変化したことから、

 

分類の処理そのものが前頭前野からvOTCへ

移ったという解釈を研究チームは支持しています。

 



研究チームによると、

自動化された処理は速い一方で、

前頭前野を使う処理よりも状況の変化に

柔軟に対応しにくいという弱点があるとのこと。

 

コックス氏は「歩きながらガムをかむことは可能でも、

運転中のスマートフォン操作は

道路から視線を外すため決して安全にはならない」と述べ、

 

2つの課題を両立させるにはそれぞれを担う

神経回路を十分に分離できる

必要があると説明しています。




 <参考: >