光の速さはとても特別です。
その速さは秒速29万9792キロメートルに達し、
わずか1秒で地球を7周半もできます。
では、
光速の一体どこが特別なのでしょうか?
1905年に提唱した「特殊相対性理論」
によって明かされました。
アインシュタインの理論によれば、
「質量のあるものは光速に到達できない」というのです。
それはなぜでしょう?
特殊相対性理論に基づくと、
質量のある物体を加速させていくと、
それにつれて質量もどんどん増大していきます。
そして光速に達する頃には、
物体の質量は無限大となっており、
物体が光の速さを保つのにも
無限大のエネルギーが必要になります。
無限大のエネルギーなんて
供給することはできませんから、
ちょっとでも質量があるなら
光速に達することはできないのです。
ただ非常に軽い物質なら光速に
限りなく近づけることはできます。
実際に人類は
LHC(大型ハドロン衝突型加速器)を使って、
粒子を光速の99.99999896%まで
加速させることに成功しています。

この場合の質量0のものとは主に
「光子(フォトン)」を指します。
光子は質量を持たない粒子です。
質量のあるものは加速するために
エネルギーが必要ですが、
質量0の光子は加速するために
エネルギーが必要ありません。
しかし逆に光子は停止することもできません。
アインシュタインの相対性理論によると、
質量0のものが光速以外のスピードで移動すると、
運動量やエネルギーの関係が崩れ、
物理法則が崩壊してしまいます。
つまり、
質量のない光子は常に光速でしか
移動していられない存在なのです。
止まることができないという点では、
むしろ不自由と言えるかもしれませんね。
ここまでを踏まえて、
すごく現実的な結論を出すと
「質量のある生身の人間はどうあがいても
光速では移動できない」ことになります。
ただ、それで終わりではつまらないので、
ここでは物理法則を無視できる
”魔法の力(=空想)”を使って、
人間をどんどん光の速度まで加速させてみましょう。
「光の速さ」は誰が見ても一定、
そして時空はゆがむ
では早速、
人間を光の速さまで加速させてみましょう!…
といった側から問題発生です。
現実的な問題を考えると、
人体はあまりに強烈な加速には耐えられないのです。
加速がキツすぎると、
体に加わるG(重力加速後)が過度に大きくなり、
血液が手足に送られなくなります。
F15のような戦闘機だと
9Gがかかる動きもできますが、
それ以上になると血液が体に回らずに
ブラックアウト(失神)してしまいます。
光速への加速となると、
戦闘機の比ではありません。
生身の人間をわずか数秒の間に
光速まで加速させたら、
あっという間にペシャンコになるでしょう。
戦闘機の9Gでも失神するのに、
すると人体が光速に近づくにつれて、
地上ではあり得ない現象が起こり始めます。
まずもって、
宇宙空間で進む光の速さは誰が見ても
一定で変わらないことがわかるでしょう。
これはアインシュタインが
特殊相対性理論の中で示した
「光速度不変の原理」と呼ばれるものです。
例えば、
魔法の膜をまとった人間が光速の60%の
スピードで宇宙を飛んでいるときに、
横から光が追い抜いていったとします。
普通に考えれば、
その光の速さは光速の60%で移動している人からすると、
光速の40%のスピードに見えると思いますよね。
これは誰もが日常的に経験していることです。
例えば、時速60キロで走る車は、
地上に立っている人からすると、
そのまま時速60キロで走っているように見えます。
しかし時速40キロで走っている車からすると、
本来より遅い時速20キロに見えるのです。
だから高速道路で追い抜かれるとき、
自動車はゆっくりと横を通り過ぎていくように見えます。
ところが真空中を進む光速では
これが起こらないことが
現代物理学の観察結果となっています。
つまり、
宇宙空間で止まっている人にとっても、
光速の70%で飛んでいる人にとっても、
光の速さはまったく同じ
秒速29万9792キロメートルに見えるのです。
本来の物理法則であれば、
光速の60%で飛んでいる人には
光の速さが通常より遅く見えるはずなのに、
実際にはこれが起こりません。
そこでアインシュタインは
この矛盾を解消するために、
逆転の発想をしました。
つまり、
光の速さがどんなスピードで
移動している人にとっても同じに見えるように、
「時間」と「空間」の側が歪むのだと。
小学校でも習う通り、
速度とは時間×距離で表されます。
どんな速度から見ても相対速度が
一定になるよう辻褄を合わせるためには、
時間と空間を歪めてしまうしかないのです。
アインシュタイン以前、
「時間」と「空間」は誰にとっても絶対的であり、
不変であると考えられていました。
しかしどんな速さで進む人にとっても
光の速さが変わって見えないのであれば、
どんな人にとっても光の速さが常に一定
(秒速29万9792キロメートル)に見えるように、
時空間の方を調節しようというのです。
例えば、
光速の60%で移動する人にとっては、
光の速さが秒速29万9792キロメートルに
なるように時間の方が遅くなります。
要するに「時間」と「空間」の感じ方は
絶対不変ではなく、
それぞれの速度で進む人によって
相対的に変わるものとなるのです。
これがアインシュタインの唱える
「相対性」の基本的な意味となります。
簡単なイメージを挙げるとすると、
地上にいる人の1時間は、
光速に近いスピードで移動する人の
1分に相当するようなものです。
これは空間でも同じで、
地上にいる人からは10メートルに見える棒が、
光速に近いスピードで移動する人にとっては
1メートルに縮んで見えるという現象が起きます。
ではもっと具体的に、
光に近い速さ(亜光速)で宇宙を旅すると、
地上にいる人とはどれくらいの差が現れるのでしょうか?
亜光速でちょっくら火星にでもひとっ飛びしてみましょう。
亜光速の旅で「時間の差」は
どれくらい出る?
光速に達した世界とは
物理的な思考実験によると、
亜光速で宇宙を旅している人は、
地球で待っている人よりも
ゆっくりと年を取ることになります。
では、
光速の90%の速度で火星まで飛んで、
地球に帰ってくるとしましょう。
総走行距離を4億5000万キロメートルとし、
一度も止まることなく亜光速で往復したとすると、
地球にいる人からは
約16分40秒経過していることになります。
しかし亜光速で移動した人にとっては
約8分20秒しか経っていないのです。
あまり差が出ていないようにも見えるので、
もう少し大胆に宇宙旅行をしてみます。
今度は太陽系から約4.3光年の場所にあり、
最も近い恒星とされる
「ケンタウルス座アルファ星」にしましょう。
速度もさらに速めて、
光速の99.99%のスピードで地球と
ケンタウルス座アルファ星を往復してみます。
すると、
地球にいる人からは約8年と8カ月が経過していましたが、
亜光速で旅行した人にとっては
約1カ月半しか経っていませんでした。
つまり、
旅行者が1カ月ちょっと旅している間に、
地球の人々は8歳も年をとっていたのです。
これが光速に近いスピードで移動すると
体験できる現象、
「時間の遅れ」となります。

移動スピードが光速に近づくにつれて、
景色も変わってきます。
特に大きく変わるのは光の色の見え方であり、
前方の光ほど「青色」に見え、
後方の光ほど「赤色」に見え始めるのです。
これは光のドップラー効果によります。
ドップラー効果は、
音源が移動するにつれて
周波数が変わる現象のことで、
救急車のサイレンがよく例えに使われるアレです。
サイレンが近づいてくると音の波長が縮まって
高い音に聞こえ、
サイレンが遠ざかると音の波長が伸びて
低い音に聞こえます。
同じことは光でも起きているのです。
亜光速で移動する人にとっては
光が前方からどんどん近づいてくるので、
波長が短くなって「青方偏移」を起こし、
青っぽく見え始めます。
反対に、
後方の光はどんどん遠ざかるので、
波長が長くなって「赤方偏移」を起こし、
赤っぽく見え始めます。
なので亜光速で宇宙空間を飛んでいると、
前を向けば青い景色が、
後ろを向けば赤い景色が見えるでしょう。
光のドップラー効果(光源が遠のくと
「赤方偏移」が起こり、
光源が近づくと「青方偏移」が起こる)
すると何が起こるのか?
まず、
光速で進む物体にとって、
時間は完全に停止します。
特殊相対性理論で証明されているように、
光速で移動する物体にとっては時間は経過せず、
時の流れも存在しなくなるのです。
そのため、
光速に達した人は
「一瞬」とも「永遠」とも取れるような、
言葉では言い表せない
時間体験をすることになるでしょう。
さらに光速に達した人からすると、
前方の光の波長は無限に短く、
後方の光の波長は無限に長くなって、
観測できるレベルの範囲を超えてしまいます。
そして「光を見る」ということ自体が不可能になり、
暗闇の世界に包まれるかもしれません。
光速に達した人間にはおそらく、
時の移り変わりも美しい景色も目にすることはできません。
それはきっと不自由きわまりない世界のはずです。
私たちが今ある自由な世界を満喫できるのは、
質量があるおかげだと言えるかもしれませんね。