2024/12/23

この地球最大の謎「生命は、どうやって生じた」のか…じつに、40億年もの生物進化から見えてきた「意外すぎる盲点」

 
 
 
 
 
 
 
 
 

この地球最大の謎「生命は、

どうやって生じた」のか…

じつに、

40億年もの生物進化から見えてきた

「意外すぎる盲点」

 
 

「地球最初の生命は

RNAワールドから生まれた

 
 

圧倒的人気を誇るこのシナリオには、

困った問題があります。

 

生命が存在しない原始の地球で

RNAの材料が正しくつながり

「完成品」となる確率は、

 

かぎりなくゼロに近いのです。

 

ならば、

生命はなぜできたのでしょうか?

 

 

この難題を「神の仕業」とせず

合理的に考えるために、

 

著者が提唱するのが

「生命起源」のセカンド・オピニオン。

 

そのスリリングな解釈を

わかりやすくまとめたのが、

 

アストロバイオロジーの第一人者として

知られる小林憲正氏の

生命と非生命のあいだ』です。

 

 

今回から数回にわたって

「地球での生物進化に、

 

非生命が生命に至るまでの

化学進化についてのヒントがあるか」

というテーマでご紹介していきます。

 

 

原初の地球生命から、

系外惑星における生命の痕跡まで、

時間と空間を縦横無尽に考察を

進めまていきます。

 

 

 

【書影】生命と非生命のあいだ

 

 
 
不明点も多い「化学進化説」
 
 

1920年代、

オパーリンとホールデンは、

生命の誕生を単純な物質から複雑で

組織化された物質への化学進化によって

説明しようとしたことを、

 

かつての記事で述べました。

 

この化学進化説はいまも、

多くの研究者に大筋では認められています。

 

しかしながら、

その詳細については不明な点だらけです。

 

 

 

アレクサンドル・イヴァノヴィッチ・オパーリン(左)と
 
アレクサンドル・オパーリン

 

 

 

そのため数回にわたるシリーズ記事でも、

化学進化の道筋をより明瞭なものにするため、

他の天体での化学進化を探ったり、

 

もし「第2の生命」が存在すれば

それと比較したりする必要があることを述べました。

 

しかし、

惑星探査には時間がかかるため、

それらの情報が得られるのは、

少し先のことになりそうです。

 

 

そこで今回から数回にわたって、

現時点でも地球上で可能な、

 

化学進化についての考察を

深める手段をみていきます。

 

 

生物進化の研究は化学進化よりも先行していて、

19世紀には本格化しました。

 

生物進化は当初は「進化論」とよばれ、

単なるアイデアとされてきましたが、

 

その後、

DNAの解析により進化の道筋が

かなりはっきりとわかるようになり、

 

さらに実験室では微生物を用いて

実際に進化が起きる様子すら観察できるようなり、

 

現在では「進化学」とよばれる

学問分野として確立されてきました。

 

 

つまり、

生物進化は化学進化の“先輩”なのです。

 

拙著『生命と非生命のあいだ』では、

地球における生物進化を振り返りながら、

 

化学進化の理解に有益な材料を

探していきましたが、

 

今回は、“進化論”そのものに絞って、

その歴史の中から、

 

化学進化について何が学べるのかを

探っていくことにしたいと思います。

 

 

なお、地球生物の進化を辿る経緯も

非常にすスリリングな展開が繰り広げられますので、

 

あわせて

生命と非生命のあいだ』もお読みくださると、

さらに理解が深まることと思います。

 

 

では、

生物進化についての考え方

“進化論”の受容変遷をみていきましょう。

 

 

 

進化する「進化論」

 

1859年にダーウィンの

『種の起原』が出版される以前にも

進化論を唱えた人はいて、

 

古くは古代ギリシャのアナクシマンドロスが、

人間は海の中で魚から進化したと考えていました。

 

 

 

ダーウィンが画期的だったのは、

進化のメカニズムとして

自然選択」を提唱したことと、

 

進化は枝分かれをして

進むと考えたことです(分岐進化)。

 

 

たとえば、

用不用説を唱えたラマルクの進化論は、

 

「キリンが高い木の草を食べようとすると首が伸び、

それが子孫に伝わる」という、

 

獲得形質は遺伝すると考えるものでした。

 

また、ラマルクは、

生物の進化は単純なものから複雑なものへと、

直線的に進んだと考えました。

 

まさに文字どおりの「進化」です

(図「ラマルクの進化とダーウィンの“進化”」)。

 

 

 

【図】ラマルクの進化(上)とダーウィンの“進化”
 
ラマルクの進化(上)とダーウィンの“進化”

 

 

ところが、ダーウィンの考えは、

生物の個体間にはさまざまな差(変異)があるが、

 

その中で生存していくのに有利な

変異を持つものが自然によって選ばれ、

 

その性質が子孫に受け継がれて

いくとするものでした。

これが自然選択です。

 

 
 
1つの種から別々の新たな種が
 
生まれるという分岐進化も考えました。
 
 
 
つまり、
 
変異によって必ずしも、
 
より複雑なものに変わっていくとは考えて
 
いなかったのです(図下のダーウィンの“進化”)。
 
 
 
そのため『種の起原』の初版では
 
「進化」とはよばず、
 
 
「変化を伴う系統
 
(descent with modification)」
 
とよんでいましたが、
 
 
のちの改訂版で「進化」
 
という言葉も使うようになったのです。
 
 

近年まであまり知られていませんでしたが、

ダーウィン進化にはもともと、

生物種がより優れたものに変わっていく

というニュアンスはありませんでした。

 

 

そしてダーウィンは、

ヒトもこの進化の流れの中に

置いて考えました。

 

しかし、このことが

 

とりわけ、

保守派からのダーウィンへの

批判を招くことにもなりました。

 

 

ダーウィンの死後、

遺伝のメカニズムが科学的に

解き明かされていきました。

 

1901年には、

オランダの植物学者ユーゴー・ド・フリース

(1848〜1935)が、

 

突然変異により進化が起きるという説を、

ダーウィンの自然選択説に

対抗するものとして提唱しました。

 

 

これが人気を博したことにより、

自然選択説は人気を失っていきました。

 

 

ダーウィン進化論

についての誤解

 

ダーウィン進化論の自然選択は、

「適者生存」と混同されることも多々ありました。

 

これは英国の哲学者ハーバート・スペンサー

(1820〜1903)が著書『生物学原理』で

使いはじめた言葉で、

 

人間社会は段階的に発展・進化していくという考えです。

 

 

 

社会は直線的によりよいものへと進化する、

というところは、

ラマルクの考えた進化にも似ています。

 

 

進化がこのようなものであるならば、

進化の流れに適した者が生き延びていく一方で、

当然、落ちこぼれる者も出てきます。

 

 

こうした適者生存の原理が、

あたかもダーウィンの考えた進化の

原理でもあるかのように曲解されて、

 

 

帝国主義による植民地支配や

人種差別にダーウィン進化論が

悪用されてきた歴史があります。

 

 

現在でも、

資本主義の中でうまく立ち回って

お金を稼ぐ人が「適者」であるというように、

 

社会的・経済的格差を容認するために

使われているようです。

 

 

ここで、

図「生命の樹から分子系統樹へ」を見てください

 

(この図は、先の記事

「生命誕生は陸上」説で生じる謎と

「うまい具合のシナリオ」

 

でも取り上げたものです)。

 

 

ダーウィンの「生命の樹」でも、

分子系統樹でも、生命の根元は

一つのところから始まっていて、

 

そこから枝分かれしながら広がっています。

 

しかし、

実はどちらの図にも上下関係は明記されていません。

 

約40億年の生物進化の中で、

最初の単細胞生物は分裂しながら生き延び、

いまもさまざまな単細胞生物として存続しています。

 

 

【図】生命の樹から分子系統樹へ
生命の樹から分子系統樹へ。
 
左はダーウィンの「生命の樹」(1837)。
 
右はウーズの分子系統樹(1990)

 

 

その一方で、

真核生物では細胞間で役割分担が進み、

 

生殖をになう「生殖細胞」はある意味、

単細胞生物と同様に40億年を

生きつづけてきたともいえますし、

 

 

それ以外の「体細胞」は、

個体の生長や死とともに

使い捨てられるようになりました。

 

 

そのように形を変えながら動物や植物として

今日まで生き残っている生物種は

数百万種あると推定されていますが、

 

それらはいずれも、

系統樹のさまざまな枝の先に位置する、

進化の最先端にいる生物たちなのです。

 

 

進化とは、

一直線に進んでいくものではない

 
 

進化というと、

まず脊椎動物が進んだ動物たちとされ、

 

そのなかで、

 

魚類→両生類→爬虫類→鳥類→哺乳類と、

直線的に進化をとげてきたと考えられがちです。

 

でもこれは明らかに間違いですよね。

哺乳類は鳥類から進化したはずはないのですから。

 

 

中生代は爬虫類の天下で、

新生代は哺乳類の時代でしたが、

 

哺乳類が爬虫類より

優れているとはいえない面もあります。

 

たとえば、

陸上生活にどちらがよく適応しているかを考えると、

 

体内の不要な窒素を、

大量の水を使って尿素として

排出しなくてはならない哺乳類よりも、

 

水なしで尿酸として排出できる

爬虫類や鳥類のほうが優れていますし、

 

肺のしくみは哺乳類よりも鳥類のほうが、

地上のいろいろな環境で

生きていくうえでは便利そうです。

 

 

直近の霊長類からの進化も同様です。

 

ヒトはチンパンジーから進化したわけではなく、

両者の共通の祖先から、

 

チンパンジー(およびボノボ)とヒトに分かれました。

 

ネアンデルタール人が進化して

現生人類(ホモ・サピエンス)になったのではなく、

 

両者は共通の祖先から分かれて共存していたのが、

4万年前にネアンデルタール人が絶滅してしまい、

 

結果的に現生人類のみになったとされています。

 

 

しかし私たちのDNAの中には

ネアンデルタール人由来のものが1〜4%

含まれていることがわかり、

 

 

この業績でスウェーデンの遺伝学者(ドイツ在住)の

スバンテ・ペーボ(1955〜)は

2022年度の

ノーベル医学生理学賞を受賞しました。

 

 

生き延びたわれわれ現生人類のほうが、

 

絶滅したネアンデルタール人よりも優れていると

考えられがちです。

 

 

しかし、

実際にはどうだったかは断定できないでしょう。

 

脳の大きさはネアンデルタール人のほうが

大きかった、ともいわれています。

 

 

 

 

【写真】現生人類のほうが、絶滅したネアンデルタール人よりも優れているとは限らない
 
現生人類のほうが、
 
絶滅したネアンデルタール人よりも
 
優れているとは限らない 
 

 

 

このように進化とは決して、

適者生存の原理にのっとった、

より複雑で優れたものに一直線に

進んでいくものではないのです。

 

 

そして、

この「進化は、一直線には進まない、

立体的で複雑なものだ」という考えが、

化学進化に大きなヒントになりそうです。

 

 

 

<参考:小林 憲正