2024/12/27

「相手の心を一瞬でつかむ人」は何が違うのか…言葉のプロが唸った、宇多田ヒカルの“ヒットの哲学” 個を突き詰めなければ、他人は理解できない

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

「相手の心を一瞬でつかむ人」は

何が違うのか…

言葉のプロが唸った、

宇多田ヒカルの“ヒットの哲学”

個を突き詰めなければ、

他人は理解できない

 
 
ヒットを生むコツはあるか。
 
電通のマーケター、
佐藤真木さんと阿佐見綾香さんは
「ビジネスに主観を持ち出してはいけないという
考え方が一般的だが、
 
必ずしもそうではない。
“ヒット作品”の根幹には、
いつも個人的な感情があった」という。
 
 
 

 

「気づき」はどの瞬間に生まれるのか

 
 

「気づき」や「違和感」とはどういうことでしょうか?

 最初に言葉の定義をしておきましょう。

 

「気づき」や「違和感」なんて日常的にあるものだから、

特に考える必要もないと思う方もいるかもしれませんが、

 

ここをひもとくことで、「気づき」や「違和感」の

重要性がわかっていただけると思います。

 

 

まず、「気づき」や「違和感」を持つときは、

なんらかの「感情」が伴うことが多いと思います。

 

 

では、「感情」はどんなときに生まれるのでしょうか?

 

「感情」が生まれる一つの要因は

「予測誤差が大きいとき」だそうです。

 

人間は絶えず外部からの情報を受け取りつつ、

常に少しだけ先を予測しながら生きています

 

 

「不快の感情」は危険を察知するセンサーである

例えば、階段を上るときなどを想像してください。

 

 

 

長い階段

あまり強く意識していないかもしれませんが、

人間は次の一歩を予測せずにはうまく階段を上れません。

 

自分自身の予測よりも誤差が大きいとき、

例えば急に段差が大きくなるなど、

 

つまずきそうになるような

危険な状況であれば「不快の感情」、

 

階段が滑りづらい素材でできていて

予測よりも安全な状況であれば

「快の感情」が発生します。

 

 

このように「感情」は合理的なセンサーであり、

「予測誤差」が大きいときに「感情」を発生させることで、

 

人間は予測と違った危機的状況に対してもより

スピーディーに対応できるのです。

 

 

感じる前に「オドロキ」がある

 

例えば、クルマの衝突実験をしているときは、

目の前でクルマが衝突しても、

あらかじめ予測しているので誤差が極めて小さく、

感情的にはそれほど驚かずに平静でいることができます。

 

しかし、

道を歩いていていきなりクルマが目の前で壁に衝突したときは、

予測できていないので、

誤差によって大きな感情が発生する、ということです。

 

 

表現の技術』(崎卓馬著 中央公論新社)には

次のように書いてあります。

 

 

感情を動かすために絶対必要な要素、
 
それは「オドロキ」です。
 
すべての人は笑う直前に必ず驚いているのです。
 
~中略~ 笑う前に必ず一度、
 
その変化に対して驚いているのに気がつきます。
 
 

つまり、

ここでの「オドロキ」こそが「予測誤差」です。

 

笑ったり悲しんだりという感情が生まれる前には、

必ず大きな「予測誤差」があるのです。

 

 

日々の習慣」がセンスに差をつける
 
 

説明がやや専門的になりましたが、

「自分の感情が動かされたとき」とは、

 

自分が予測したことと、

実際に起こったことの誤差が大きかったときなのです。

 

 

「予測」の多くは、

日常的な習慣や常識に則って行なわれています。

 

つまり、「気づく能力」や「違和感」とは、

自分の予測=「常識/定説」に対して

「何か変だと気づく能力」とも言えるかもしれません。

 

 

それが、

このステップで必要な「感性力」です。

 

 

この「気づく能力」を高めるためには、

日頃から「自分の感情が動かされたとき」を、

 

常に忘れないようにメモしたり、

SNSにつぶやいたりしておくとよいでしょう。

 

 

 

ベッドで横になってスマートフォンを見る女性
 
 
 
 

すると、自分の「気づき」や「違和感」(=誤差)が、

どのような「常識」や「定説」(=予測)に対して

生まれるものなのか、

というストックを持つことができます。

 

 

振り返りやすい「メモ」のつくり方

 
 

例えば、こんな感じです。

 

○自分の「気づき」(=誤差):
 
昔のフィルムカメラや万年筆を使うと楽しい。
 
不便なもののほうが魅力的なのでは?
 

 その「気づき」に対する「常識/定説」:
 
常識としてのコスパ・タイパ至上主義。
 
効率が良いものを追求することが生活を
 
豊かにするという考え方や価値観
 
 
 
○自分の「違和感」(=誤差):もしかしたら、
 
現代ではSNSでのやりとりのほうが、
 
アナログ的なやりとりよりも
 
人間関係を豊かにするのかも?
 
 
 

 その「違和感」を抱いた「常識/定説」(=予測):
 
デジタルよりも、
 
アナログな手紙や手作りギフト、
 
リアルの対面会議、飲みニケーションなどが、
 
 
人間関係を深めることにおいては
 
重要だという従来の考え方や価値観
 
 

このような「普段の暮らし」の中にある

 

「自分自身の感情/感覚」に意識的でいることが、

後々のインサイト探索には非常に役に立つのです。

 

 

インサイトが、

その人のセンスや属人的な能力のように

感じられることがあるのは、

 

その人が自分自身の「普段の暮らし」を

どのように意識しているかが

 

大きく影響しているからかもしれませ

「非合理」な感情が人を動かす

 

では、なぜ、インサイト探索の最初の一歩が、

「気づき」や「違和感」なのでしょうか。

 

 

それは、「インサイト」とは、

最終的に人を動かすためのものだからです。

 

 

「人を動かすこと」、それは、

すなわち「人の意思決定を促すこと」です。

 

 

昨今の行動経済学で言われるように、

人間の意思決定や行動には、

 

“非合理な”「感情」が大きな影響を与えています。

 

私たちは世界から得られるあらゆる情報を

「感情」というフィルターを通して認知し、

判断・行動しているのです。

 

 

そして、その「感情」は、

グラデーションを持ちながら、

 

実に様々な種類があり、

さらにそれらが互いに

複雑に絡み合ってできています。

 

繰り返しになりますが、

その多様で複雑な感情の中にこそ、

 

「インサイト」=「隠れたホンネ」も

埋もれているのです。

 

 

つまり「気づき」や「違和感」を大事に育てることは、

人を動かす「隠れたホンネ」を

見つけることにつながるのです。

 

 

ビジネスに「主観」を持ち出していいのか

 

 

でも、ビジネスで「感情をベースに考えていく」なんて、

心もとないと思う方もいるかもしれません。

 

 

普段、数字やデータを客観的な裏付けとして

判断をしている場面は多いでしょうし、

感情は「自分がそう感じた」というような、

極めて主観的なものです。

 

 

そんな個人的なものをもとにして、

多くの人を動かせるのでしょうか?

 

 

他人の感情を正確に測ろうとしても、

想像することはできるかもしれませんが、

寸分の狂いなく正確に理解することはできません。

 

 

また、マーケティングデータのように数値化しても、

客観的に理解することは、

そう簡単ではありません。

 

 

しかし、

あきらめてはいけません。

 

その難題の唯一の解決方法は、

「自分の感情をできるだけ正確に把握する」

ことです。

 
 
 
 
 

著名なシンガーソングライターである

宇多田ヒカルさんは、

 

自身の作詞作曲について、

次のように語っています。

 

 

 究極の個や自分を突き詰めると、
 
人間理解につながる。

 それで、
 
人間のことやまわりの人たち、
 
遠くにいる関係のない人たちのことも、

 より深くわかるような気がする。
 

(「EIGHT-JAM」テレビ朝日 2024年4月28日放送)
 
 
 

自分がある出来事に対して、

どう感じるかという自分自身の「感情」を、

言葉や行動など何かしらの方法で表現し、

 

それに共感してくれるかどうかを確認することでしか、

私たちは他人の「感情」を理解することはできないのです。

 

 

例えば、

あるミュージシャンが自分の感情を

一曲の歌に込めて表現します。

 

 

その歌が一人、

また一人と人々の心に響き、

少しずつ多くの人が共感し始めます。

 

最終的に、

その共感が集まって一つのヒット曲が

生まれることがあります。

 

 

これは、

一人のミュージシャンの主観的で個人的な感情が、

一人ひとりの共感を経て、

多くの人に受け入れられ、

「共通の感情」へと進化する過程です。

 

 

 

ステージでマイクを持つ女性
 
 
 
 

つまり、自分自身の「感情」に気づいて、

それを表現することで、他人との共感を生み出し、

 

より広く、

より多くの「人を動かす」ことができます。

 

それは、

「隠れたホンネ」の中にある

「感情」を探り当てていくという、

 

インサイト探索のはじめの一歩のような

作業とも言えるのです。

 

 

つまり、

世の中のほとんどのヒット作品は

「隠れたホンネ」を捉えていると

言っても過言ではありません。

 

 

たとえば、こんな日常の1コマに隠れている

 

 

以上より、

インサイトを見つけるときに大切なことは

「普段の暮らしの中で感じる、

自分自身の感情」に目を向けることと言えるのです。

 

 

日常生活の中での自分の感情に目を向けるというのは、

例えば、次のようなイメージです。

 

 

○家族や友人との会話で、
 
何気なく出た一言が面白いと感じたとき
 
 

その瞬間、
 
なぜその言葉に引き込まれたのか、
 
理由を探ってみる
 
 

 

 

○新しいレストランでの料理に、

想像以上に感情を揺さぶられたとき

 


その食体験がなぜ特別だったのかを

自分なりに分析してみる

 

 

 

○SNSでもてはやされているトピックに、

不快を感じたとき

 


その不快の感情が何に根ざしているのか、

深く掘り下げてみる

 
 
 
 
 
 
 
佐藤真木・阿佐見綾香『センスのよい考えには、「型」がある』(サンマーク出版)
 
 

 

さらに、こういった数々の自分の

「個人的な感情」が動いた瞬間を集めて、

 

忘れないようにメモに残したり、

記憶にとどめたりして、

ストックしておくことも大切でしょう。

 

 

実は、

仕事として「さあ、インサイトを見つけよう!」と

意識する前の、

 

日常生活を送っている段階で、

すでにインサイトを見つける準備が始まっています。

 

 

プロの人たちの話をまとめると、

インサイトは見つけたり探したり、

 

というよりも、

日々の生活の中での

「気づきや違和感」を集めておいて、

 

「なぜ自分がそう思ったのか?」を

考える習慣をつけ、

 

それを思い出すということのほうが、

実際の作業の感覚に近いかもしれません。

 

 

<参考:佐藤真木・阿佐見綾香>