2026/6/13

「細胞美容」時代の3つの アプローチ。 ロレアルや新興ブランドも 製品化する肌のロンジェビティ

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 「細胞美容」時代の3つの

アプローチ。

ロレアルや新興ブランドも

製品化する肌のロンジェビティ

 
 
 
 

細胞美容とは、肌を表面から整えるだけでなく、

細胞の健やかな働きを長く保つことに着目する美容概念だ。

 

そのための3つのアプローチが、

"ゾンビ細胞"といわれる老化した細胞の制御、

細胞エネルギーのケア、

細胞年齢のケアだ。それぞれのアプローチと、

それらを応用したスキンケアの開発に取り組む

ロレアルやスタートアップの取組も紹介しつつ、

肌や髪におけるロンジェビティトレンドを考える。

 

 

 

ロンジェビティ研究の核となる

細胞老化をどう防ぐかという課題

 
 

現在の美容業界における老化研究は、

単なるアンチエイジングではなく、

心身ともに健康で若々しく活動できる

期間=健康寿命の最大化を目指す

ロンジェビティという考え方にもとづき推進されている。

 

こうしたロンジェビティ研究で着目されるのが

「細胞」だ。なぜなら老化は、

 

肌や髪などの見た目や臓器だけで起きる現象ではなく、

約36〜37兆個あるという人体を構成する

細胞の機能低下が積み重なって、

組織から臓器、

そして、全身の老化として現れるからだ。

 

 

米国の論文掲載誌Cellに掲載された論文によると、

老化の特徴は12のタイプに分けて整理できるという。

 

ゲノム不安定性、

テロメア(染色体の末端にあるDNAの繰り返し配列)短縮、

 

エピジェネティック

(遺伝子を使うかどうかを制御するスイッチ)変化、

 

プロテオスタシス

(細胞内におけるタンパク質の恒常性維持機構)の喪失、

 

マクロオートファジー

(細胞内の不要なタンパク質や損傷した小器官を回収・分解し、

細胞の構成成分として再利用するシステム)の障害、

 

栄養感知の調節異常、

ミトコンドリア機能不全、細胞老化、

幹細胞の枯渇、細胞間コミュニケーションの変化、

 

慢性炎症、およびディスバイオシス

(常在菌のバランスの乱れ)だ。これが意味するのは、

 

その多くが細胞内、

または細胞同士の相互作用で起きる現象だということだ。

 

 

また、最近のテクノロジーの進化により、

細胞の老化が可視化されたことも大きい。

 

かつては肌老化といえば、シワの深さ、

水分量、弾力、シミなどの色むらといった、

表面の測定が中心だったが、

 

今はそれに加えて、

遺伝子発現、タンパク質発現、単一細胞解析、

ミトコンドリア機能測定などの、

細胞そのものの老化を測る指標が使われるようになり、

どの細胞機能が落ちているのか、

どの老化経路が動いているのかを研究しやすくなった。

 

つまり、細胞から老化の原因を知り、

状態を把握することで、成分や薬剤、

 

デバイスによる改善のための細胞への

介入ができるようになってきたのだ。

 

 

ロンジェビティ文脈において

美容業界で行われている細胞研究について

 

「"ゾンビ細胞"といわれる老化した細胞の制御」

「細胞エネルギー、ミトコンドリアのケア」

「エピジェネティック制御による細胞年齢のケア」の

 

3つの方向性から実装が進む技術を取り上げる。

 

 

ゾンビ細胞を標的に除去・

抑制するセノリティクス/セノモリフィクス

 
 

通常、古い細胞が分裂を停止して

新しい細胞に置き換わるときには、

 

自ら死んで壊れるアポトーシス(細胞死)を起こすか、

免疫細胞に食べられて体内から消えるのだが、

 

分裂を停止したにもかかわらず死滅せず、

臓器や組織のなかに残ってたまり続ける

「老化細胞」がある。この老化細胞のなかには

周囲の正常な細胞に悪影響を及ぼすものがあり、

 

老化やがんなどの病気を引き起こす

要因にもなりうることから、

 

俗に「ゾンビ細胞」とも呼ばれている。

 

このゾンビ細胞が蓄積すると、

炎症性サイトカイン、プロテアーゼ、

成長因子などを分泌する

SASP(Senescence-Associated Secretory Phenotype:

細胞老化随伴分泌現象)がおき、

周囲の組織老化や慢性炎症を促すと考えられている

 

 

この現象の対策として開発された技術が、

ゾンビ細胞を標的としアポトーシスへ誘導し除去する

「セノリティクス(senolytics)」や、

細胞を殺さずにSASPなどの有害な現象を抑える

「セノモリフィクス(senomorphics)」だ。

 

 

2018年創業の米Rubedo Life Sciencesは、

老化細胞のなかでも、

慢性炎症や組織機能低下を引き起こすタイプの

細胞を見分けて除去することで、

 

人体が生物学的に若い状態を保てる

医薬品の発見・開発を目指す

セノリティクス的アプローチをとるバイオ医薬企業だ。

 

 

技術基盤である独自のAI創薬プラットフォーム

「ALEMBIC」を駆使し、

 

AIや単一細胞解析、

空間マルチオミクス解析(組織切片上の

細胞が持つ位置情報と、

 

遺伝子・タンパク質などの複数の生体分子データを

同時に取得・統合して解析する技術)などを組み合わせて、

疾患組織のなかにある特定の老化細胞集団や

標的を見つける仕組みをとる。

 

 

 

2026年3月には、

リード薬剤候補「RLS-1496」について、

乾癬、アトピー性皮膚炎、皮膚老化を対象とした

フェーズ1試験の予備結果を発表

 

主要評価項目を達成し、標的エンゲージメントと乾癬・

アトピー性皮膚炎の臨床改善の間に統計的に

有意な関係がみられたとしている。

 



一方、2016年に米サンフランシスコで創業した

OneSkinは、

セノモリフィクス領域における代表的な

ビューティブランド&バイオテック企業だ。

 

同社の スキンケア/ヘアケア製品に

配合されている独自成分「OS-01 Peptide(Peptide 14)」は

「皮膚や毛髪の老化の主要な要因である

細胞老化を抑制することが、

科学的に証明された初のペプチド」をうたう。

 

 

開発にあたっては、ヒト真皮線維芽細胞を用いて、

UVB照射細胞やエトポシド処理(DNA損傷)細胞などの

複数の老化モデルを作成。

 

これらの細胞に候補のペプチドを実際に投与し、

第1段階で有望な上位候補を絞り、

次にそれらをもとにアミノ酸配列を少しずつ変えた

多数の派生ペプチドを作って、

 

細胞の状態やふるまいを観察する

2段階の表現型スクリーニングを採用した。

 

その結果、

最終的に細胞老化を減らし毒性が少ない

候補としてPeptide 14が選ばれた

 

 

臨床面では、

2024年に発表された22名対象の

12週間にわたる「スプリットフェイス・二重盲検・ビークル

対照試験(顔の左右で有効成分入りと成分なしの

基剤を塗り分け、

 

本人にも評価者にもどちらか分からない状態で

効果差を見る試験)」では、

OS-01 Peptide配合製剤による目もとのシワ、

肌質感、輝き、保湿感などの皮膚への良い影響が評価された。

 

 

OneSkinは2025年にニューヨークに拠点を

置くグロース・エクイティ(成長企業向け投資)ファーム

Prelude Growth Partnersから2,000万ドル(約32億円)の

シリーズA投資を受けており、

スキンロンジェビティ領域の商業化事例として注目されている。

 

 

傷ついたミトコンドリアを分解・

リサイクルするマイトファジーを促進

 
 

ミトコンドリアは細胞のなかで

エネルギー産生に関わる小器官で

「細胞の発電所」とも称される。

 

肌細胞でいえば、

ターンオーバー、バリア機能、コラーゲン産生、

修復反応など、

さまざまな活動にはエネルギーが必要で、

その供給に深く関与するのがミトコンドリアだ。

 

 

ただし、ミトコンドリアはエネルギーを作る過程で

酸化ストレスも発生させるため、

壊れたミトコンドリアが細胞内に残ると、

エネルギー効率が落ちるだけでなく、

活性酸素や炎症シグナルが増え、

細胞の老化を進める原因になりうる。

 

そこで注目されているのが、

細胞のなかで古くなったり壊れたりしたミトコンドリアを

選択的に分解・再利用する

「マイトファジー(mitophagy)」という

人体に備わっている仕組みだ。

 

 

マイトファジーでは、

細胞が「このミトコンドリアはもう傷んでいる」と

判断すると、

そのミトコンドリアに目印をつける。

 

その後、

オートファゴソームという膜が形成されて

傷んだミトコンドリアを包み込み、

 

最終的に、さまざまな酵素を内包する

細胞小器官のリソソームが分解し、

アミノ酸や糖などの栄養素としてリサイクルする。

 

 

このマイトファジーを活性化する成分として

研究されているのがウロリチンA(urolithin A)という分子だ。

 

健康な高齢者を対象とした初のヒト試験では、

ウロリチンAの安全性とミトコンドリア関連

バイオマーカーへの影響が報告されている

 

 

この分野において有力視される企業のひとつに

、ロレアルのベンチャーキャピタルBOLDが2024年に

少数株式を取得しているスイスのバイオテック企業Timelineがある。

 

同社はスイス連邦工科大学ローザンヌ校(EPFL)発の

スピンオフで2007年に設立された企業だ。

 

 

中心技術は15年の研究と5,000万ドル(約80億円)以上

の研究開発費を投じて開発された

「Mitopure(ミトピュア)」という独自成分で、

 

ウロリチンAを高純度で安定的に使えるようにしたものだ。

 

ウロリチンAは、ザクロやベリー、

ナッツなどに含まれるポリフェノールが

腸内細菌によって代謝されてできる物質だが、

 

誰もが十分に生成できるわけではないため、

 

Timelineは、Mitopureというマイトファジーを

促進するウロリチンAを直接摂取・使用できる形にして、

グミやパウダー状のサプリメントやスキンケアに配合している。

 

 

さらに2026年2月には、

ロレアル傘下のランコムがTimelineのMitopureを

用いた新たなスキンケアラインを展開すると発表した。

 

Mitopureとランコムの独自成分を組み合わせ、

肌に対して臨床的に証明されたロンジェビティの

恩恵をもたらすスキンケアラインで、

肌の「生物学的な年齢(実年齢とは異なり、

細胞や臓器、組織の状態から評価した

身体の本当の年齢)」に働きかける設計になるという。

 

 

細胞年齢リセットは可能か?

エピジェネティック・リプログラミング

 
 

「細胞年齢を巻き戻すことはできるのか」という、

ロンジェビティ研究のなかでも先端的なテーマとして

話題を呼んでいるのが「エピジェネティック・リプログラミング」だ。

 

これは、端的にいうと、

細胞のDNA配列そのものを変えるのではなく、

DNAの“使われ方”を決めるスイッチ状態を変えることで、

細胞の機能や老化状態を若い方向へ戻そうとする技術だ。

 

 

細胞は、

基本的には同じDNAを持っているが、

それでも皮膚細胞、神経細胞、筋肉細胞など違う

性質や働きをする細胞が作られるのは、

 

使っている遺伝子が異なるからだ。

 

この「どの遺伝子をオン/オフするか」を

調整する仕組みがエピジェネティクスだ。

 

加齢が進むと、このエピジェネティックな制御が乱れ、

本来は静かにしているべき遺伝子が動いたり、

逆に修復・代謝・再生関連の遺伝子が

働きにくくなったりする。

 

そこで、DNA配列そのものではなく、

エピジェネティック状態を変えることで、

細胞の老化状態を若い方向へ戻せないかという

研究領域がエピジェネティック・リプログラミングだ。

 

 

リプログラミングとは細胞の状態を

別の状態へ書き換えることで、

 

有名なのは、

京都大学 山中伸弥教授らの研究につながるiPS細胞だ。

 

iPS細胞の作製では、線維芽細胞などの体細胞に

OCT3/4、SOX2、KLF4、c-MYC、

 

いわゆるOSKM因子(細胞の状態を

若く未分化な状態へ戻す力を持つ、

 

4つの遺伝子・転写因子のセット)を導入することで、

ほぼ無限に増殖する能力(自己増殖能)と身体を

構成するほぼすべての細胞に分化する

能力(多分化能)をあわせもつ、

多能性幹細胞のような状態へリプログラムできることが示された

 

 

一方で、ロンジェビティ研究で使われる

「部分的リプログラミング」では、

OSKM因子の働かせ方によっては、

細胞が元の細胞らしさを失う脱分化や、

 

多能性化に伴う腫瘍形成リスクが問題になる。

そこで、細胞を完全なiPS細胞に戻すのではなく、

 

細胞の種類は保ったまま、

老化したエピジェネティック状態だけを

若い方向へ戻すことを狙うアプローチ

部分的プログラミングだ。

 

つまり、

老化した皮膚線維芽細胞を

「若い線維芽細胞のような状態」に近づけたいが

「線維芽細胞ではない何か」にまで

戻してしまっては意味がない、

 

というジレンマをいかにして

解消するかの研究が進められている。

 

 

美容関連では、ロレアルが2025年、

エピゲノム検査企業 TruDiagnosticとの

戦略的R&D提携を発表し、

エピジェネティクスと美容、

とくに肌・髪の長期的健康との関係を

探索すると説明している。

 

 

TruDiagnosticは、

米ケンタッキー州レキシントンを

拠点とするエピジェネティック検査/

生物学的年齢検査を行う企業だ。

 

2020年創業で、

臨床医向けや一般消費者向けに、

血液などのサンプルから生物学的年齢、

老化速度、健康・ロンジェビティ関連マーカーを

解析するサービスを提供している。

 

 

たとえば暦年齢が40歳でも、

生活習慣、睡眠、炎症、ストレス、代謝状態などによって、

身体の生物学的年齢や老化速度は異なる可能性がある。

 


TruDiagnosticは、

こうした各自の違いをDNAメチル化パターン、

 

すなわち、DNAの塩基配列(A、T、G、C)を変えることなく、

シトシン(C)という塩基に“メチル基”という

目印が付加される化学反応

(エピジェネティック状態)から

読み取るとしている。

 

 

 

TruDiagnostic

ロレアルは同社との提携により、

肌や髪の見た目・機能の変化は、

エピジェネティック変化とどう対応しているのか、

たとえば、肌のハリ、弾力、シワ、乾燥、

バリア機能、頭皮や毛髪の状態といった美容指標が、

老化速度やエピジェネティック年齢、

炎症・代謝・修復に関わるマーカーとどう関係するのかを

解明するための研究を進め、

見た目の美しさだけでなく、

長期的な肌・髪の健康を促進する

先進的な製品開発につなげるとしている。

 

 

 

<参考: そごうあやこ >