2024/9/7

「ピンチになったら赤ちゃんに戻る」老化プロセスを逆転させる不老不死生物を新たに発見!

 
 
 
 
 
 

「ピンチになったら赤ちゃんに戻る」

老化プロセスを逆転させる

不老不死生物を新たに発見!

 

 

生きとし生けるものの老化は常に一方通行であり、

大人から赤ちゃんに戻ることはありえません。

 

 

しかし以前の研究で、

刺胞動物(しほうどうぶつ)の「ベニクラゲ」だけは

大人から赤ちゃんの状態に戻り、

再び生を繰り返すことが知られていました。

 

 

それゆえ、

ベニクラゲは通称”不老不死のクラゲ

(Immortal Jellyfish)”と呼ばれています。

 

 

そんな中、

ノルウェー・ベルゲン大学(University of Bergen)は最近、

「ベニクラゲと同じ能力を持つ生物を新たに

発見した可能性がある」と報告しました。

 

 

その生物はクラゲに似た有櫛動物

(ゆうしつどうぶつ)というグループに属する

「ムネミオプシス・レイディ」です。

 

 

彼らは一体どのような

”若返りの秘術”を行うのでしょうか?

 

 

研究の詳細は2024年8月10日付で

生物学のプレプリントリポジトリ『BioRxiv』に公開

 
 

ベニクラゲの「若返りの秘術」とは?

 
 
 
 
ベニクラゲ
ベニクラゲ 

ムネミオプシス・レイディの前に、

まずはベニクラゲの若返りを見てみましょう。

 

 

ベニクラゲ(学名:Turritopsis dohrnii)は

世界中の温帯〜熱帯の海に生息する

体長1センチにも満たない小さなクラゲです。

 

 

ベニクラゲの一生は他の多くの生物と同じように、

両親の交配により作られた受精卵から始まります。

 

 

受精卵から生まれたベニクラゲは最初、

海中をふわふわと漂う

「プラヌラ」という幼生段階に入ります。

 

 

その後、

海底の岩場や貝殻に付着して固着段階に

なったのが「ポリプ」です。

 

 

ポリプは次第に植物のように枝分かれした状態になり、

一つ一つの芽から「幼クラゲ」が海中に離脱していきます。

 

 

そして数週間の成長ののちに

「メデューサ」と呼ばれる

大人のベニクラゲとなるのです。

 

 

ベニクラゲの通常の生活環(緑)と若返りのルート(青)
 
ベニクラゲの通常の生活環(緑)と若返りのルート(青) 
 
 
 
 
 
体が徐々に分解されていき、
 
海の中へと溶けていきます。
 
 

ところがベニクラゲは違います。

 

 

彼らはメデューサの段階で飢餓状態に陥ったり、

体を損傷したりすると、

ポリプの状態に戻り、

何度も生をリスタートできるのです(上図の青色ルート)。

 

 

しかも、

この若返りの秘術はたった1回だけ許された能力ではなく、

何度も発動することができます。

 

 

つまりベニクラゲは理論上、

「不老不死を手に入れた存在」と言えるのです。

 

 

一方通行の老化が運命づけられている生物において、

ベニクラゲの能力は異例中の異例であり、

特異な存在といえます。

 

 

ところがベルゲン大学の研究チームは、

ベニクラゲと同じ能力を持った新たな

生物を見つけたというのです。

 

 

それが「ムネミオプシス・レイディ」でした。

 

 

 

不老不死の能力を持つ新生物

「ムネミオプシス・レイディ」

 
 

「ムネミオプシス・レイディ(学名:Mnemiopsis leidyi)」は、

クラゲに似た見た目をしていますが、

クラゲの仲間ではありません。

 

 

彼らが属するのは有櫛動物

(ゆうしつどうぶつ、クシクラゲ類とも)

というグループです。

 

 

クラゲ類(刺胞動物)が漂泳性と付着性の

2つの生活環を持つのに対し、

クシクラゲ類(有櫛動物)の生活環は

すべて漂泳性のみになります。

 

 

なので、

彼らがクラゲのポリプのように海底に

固着することはありません。

 

 

 

ムネミオプシス・レイディの成体

ムネミオプシス・レイディの成体 

 

 

ムネミオプシス・レイディの生活環

 
 

ムネミオプシス・レイディは最初、

ベニクラゲと同じように、

両親の交配による受精卵から生をスタートさせます。

 

 

産卵から大体24時間かけて発生し、

ふ化した自由遊泳性の幼生が

「シディッピド(cydippid)」です。

 

 

シディッピドの最大の特徴は

獲物を捕らえる2本の長い触手であり、

これは成体には存在しません。

 

 

その後、

触手が退化して体が大きく成長すると

「ローベイト(lobate)」と呼ばれる成体に達します。

 

 

ベニクラゲよりはずっと大型で、

体長10センチ前後となります。

 

 

 

ムネミオプシス・レイディの生活環(濃い青が新たに見つかった若返りのルート)

 

ムネミオプシス・レイディの生活環

(濃い青が新たに見つかった若返りのルート) 

 
 
 
 
 
アメリカ大陸の大西洋沿岸を原産地としていましたが、
 
現在はアジアやヨーロッパの海にも広がっています。
 
 

彼らは餌がなくても、

船のバラスト水(大型船舶が航行時の

バランスをとるために船内に取り込む海水のこと)の

中で何週間も生き延びられるので、

 

大西洋を死なずに横断できたと考えられています。

 

 

しかしそのせいで、

黒海や地中海の在来の生物と資源を奪い合っており、

生態系や漁業に少なからぬ打撃を与えているのです。

 

 

そこで研究チームは

ムネミオプシス・レイディの生存力がどれだけ高いか

明らかにするため、ある実験をしました。

 

 

「若返りの秘術」の持ち主だった!

 
 

チームはムネミオプシス・レイディの成体を

捕獲して2つのグループに分け、

 

一方は餌を与えずに飢餓状態にし、

もう一方は組織を切り取って断片化させました。

 

 

普通の生物だったら死んでしまう状態で、

数週間様子を見ています。

 

 

 

上:飢餓状態、下:組織を切り取って断片化

上:飢餓状態、下:組織を切り取って断片化 

 
 
 
 
ムネミオプシス・レイディは数ミリ程の
 
小さな塊へと縮んで行きましたが、
 
死ぬことはありませんでした。
 
 

チームがこの段階で餌を与えてみたところ、

彼らは2本の触手を生やして幼生段階の

「シディッピド」となったのです。

 

そして何事もなかったように再び成長を繰り返し、

大人のムネミオプシス・レイディに戻っていました。

 

 

(チームによると、すべての個体が若返ったわけではなく、

実験では65匹中13匹が再生したという)

 

 

また繁殖能力も通常の個体と同じようにあったといいます。

 

 

成体が幼生に戻るまで。上2つが飢餓状態、下が組織を切り取ったもの。

成体が幼生に戻るまで。

上2つが飢餓状態、下が組織を切り取ったもの。 

 

 

これは実に驚くべき結果でした。

 

まさにベニクラゲと同じ若返りの

プロセスとよく似ていたからです。

 

この結果はムネミオプシス・レイディも

危機的状態に陥ると、

 

幼生段階に戻って生をリスタート

できることを示唆しています。

 

 

ピンチに直面したムネミオプシス・レイディは

触手のある幼生に戻り、

 

成体のときには手に入らなかった

餌資源などに切り替えていると考えられます。

 

 

チームが発表した研究論文はまだ査読前であるため、

完全な結論が出たわけではありません。

 

しかし今回の知見はムネミオプシス・レイディの生存力の高さ、

および生物の老化の仕組みを詳しく

理解するのに役立つと期待されています。

 

 

彼らの若返りの

遺伝的メカニズムを解き明かすことで、

 

私たちヒトの老化予防にも役立つ

情報が得られるかもしれません。

 

 

 

<参考:>