Y染色体の進化を示す
新たな研究が発表に
学名「ホモ・サピエンス(Homo sapiens)」、
ラテン語で「賢い人間」の意味する現生人類が属する種。
つまり、現代人を示す学名であるが、
そんなわれわれは23対の
染色体を持っていることはご存じかと思う。
特別な染色体異常がない限り、
すべての人間はこの23対の染色体を持っている。
ただし、
23番目の対は性染色体と呼ばれ、
生物学的な性を決定する遺伝子を含んでいるのだ。
ほとんどの女性は2本のX染色体を持ち、
ほとんどの男性は1本のX染色体と
1本のY染色体を持っていることがわかっている。
2010年以降*1、
科学者たちは人間のY染色体が
急速に進化していることへの認識を深めていった。
過去の進化生物学者たちは長い間、
「Y染色体がほとんど変わっていない」と
それまで考えていたため、
この発見は驚くべきものであった。
そしてペンシルベニア州立大学、
そして国立ヒトゲノム研究所、ワシントン大学の
新しい研究*2では、
この急速な変化はヒトのY染色体だけでなく、
チンパンジー、ボノボ、ニシローランドゴリラ、
ボルネオオランウータン、スマトラオランウータン、
そして遠縁のシアマン(フクロテナガザル)など、
他の大型類人猿のY染色体でも
起きていることが示された。
研究者たちは、
「テロメア・トゥ・テロメア
(Telomere-to-Telomere=T2T)シーケンシング」
という方法を用いて、
テロメア(染色体の「キャップ」として
機能するタンパク質構造)を基に、
種間での比較を行った。
そうしてコンピューターソフトウェアを使い、
染色体のどの部分が変化し、
どの部分が同じであるかを判別。
すると6つの種の中で、
Y染色体はX染色体よりも遥かに多くの変異を示したという。
例えば、
人間とチンパンジーのX染色体は
約98%が一致していているが、
Y染色体の一致率はわずか3分の1程度。
この研究結果は、
2024年5月下旬に『Nature』誌に掲載*3されている。
この研究結果から見える可能性
ペンシルベニア州立大学のカテリーナ・マコヴァ氏は、
プレス声明*4で次のように述べている。
「性染色体は最初、
他の染色体対と同じように始まりましたが、
Y染色体はそのほとんどの部分で
他の染色体と遺伝情報を交換しないため、
多くの遺伝子の欠失や変異、
繰り返しが蓄積されてきたという点で
独特な染色体です」
もちろん、
Y染色体を持つ個体が、
持たない個体よりも進化しているというわけではない。
つまり、
私たちは皆同じ種の一員なのだ。
一方で、
ボノボやチンパンジーのように同じ属の種であっても、
Y染色体には顕著な違いがある。
これらの変異はたった1つの個体から得られたものであり、
その種内でもっと多くのバリエーションがある
可能性に注目すべきである。
そうなると、
人間と同様に他の個体でも多様な変異が
見られる可能性は高いと言える。
大型類人猿におけるY染色体の違いを理解することは、
人間の健康に役立つだけでなく、
絶滅危惧種となっている霊長類の同族を
理解するのにも役立つ可能性がある。
マコヴァ氏は、
別のプレスリリース*5で次のように述べている。
「これらの大型類人猿の種が、
絶滅の危機にあることを忘れてはなりません。
この研究を通じて人類の進化について学ぶだけでなく、
彼らのゲノムとヒトゲノムの知識を応用して、
絶滅危惧種の生態や繁殖をよりよく
理解することができるでしょう」
- 染色体の23番目の対には性染色体が含まれているが、
- ほとんどの女性は2本のX染色体を持ち、
- ほとんどの男性は1本のX染色体と1本のY染色体を持っている。
- 2010年以降、科学者たちは人間の
- Y染色体が急速に進化していることを知っていたが、
- 新しい研究によると、
- 同じ現象が人間にとても近い類人猿全体にも
- 当てはまることが明らかになった。
- 驚くべきことに、チンパンジーやボノボのような
- 同じ属の種間でも、
- Y染色体には顕著な違いがあることも判明している。