月面に家を建てる
月面に家を建てる──サイエンス・フィクションの
世界で繰り返し描かれてきた夢が、
いよいよ現実味を帯びてきたといえるかもしれない。
しかもその家づくりを担うのは、
地球上で数々の建築を手がけてきた
老舗ゼネコン、竹中工務店である。
竹中工務店は、東京大学、九州大学、
そしてJAXA(宇宙航空研究開発機構)が
共同で進める月面ベースキャンプの
研究開発プロジェクトに、
2024年度より参画。
Interop Tokyo 2025において、
プロジェクトに関する展示を行った。

空気や水の供給・循環設備を盛り込んだ設計
プロジェクトが目指すのは、
月面のうち特定の地形に、
人類の活動拠点となる“ベースキャンプ”を設営すること。
このベースキャンプは調査用基地ではなく、
4人が6ヶ月間暮らせる本格的な
「住まい」としての機能を備えた施設だ。
折りたたみ式の家、月で展開
この月面ベースキャンプの最大の特徴は、
「展開着床機構」と呼ばれる折りたたみ式の構造にある。
ロケットで運べる限られたスペースと重量の中で、
必要な生活空間を確保することを優先した結果、
打ち上げ時は折り畳まれており、
月面で展開することで、
最小構造から最大効率を引き出す設計に辿り着いた。
これまでに、
小型モックアップでの形状設計はほぼ完了しており、
昨年度時点で実大パーツの試作段階に突入しているという。
滞在モジュールには、
空気や水の供給・循環設備の構想、
さらには月面での野菜栽培を
見据えた緑化スペースの検討など、
「暮らし」に欠かせない要素を地球から
宇宙へ持ち込む工夫が詰まっている。

月に住むためにはどうすれば良い?
プロジェクトが現時点でターゲットにしているのは、
月の中でも南極近くのエリアだ。
このエリアは「永久日照」と呼ばれる、
地球の「白夜」のように太陽がほとんど沈まない。
これは太陽光発電を持続的に行えるという意味で、
エネルギーの面から非常に魅力的だ。
また、クレーターの底に存在する「永久影」には、
氷として水が存在するとされ、
それを資源として活用する研究も進んでいるようだ。
さらには「縦孔(たてあな)」と呼ばれる
地下洞窟も注目されている。
地表よりも安定した温度環境、
宇宙放射線や隕石からの自然な防護が期待でき、
こちらも拠点設営の有力候補地だ。
「人が暮らす空間」を月に作る意味
現在、
NASAが主導するアルテミス計画などを背景に、
世界的に宇宙開発は再び活況を見せている。
もちろん、
実際に月面に滞在して生活が成り立つまでには、
まだハードルがあることは否めないだろう。
しかし、竹中工務店が長年培ってきた技術が、
地球を飛び出し、
宇宙空間にまで広がる“かもしれない”。
それでも、ちょっと胸が高鳴るというもの。
少し先の未来、
月の表面に立つ居住空間で日本語が飛び交い、
誰かが「そろそろ、食事の時間だね」
などと口にしているかもしれない。