2025/2/27

人類は生き残るために「知略革命」を起こした…ホモ・サピエンスが遂げた「驚きの進化」

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

人類は生き残るために

「知略革命」を起こした…

ホモ・サピエンスが遂げた

「驚きの進化」

 
 
 

人類は進化の過程で共感力を獲得し、

言語を発達させてきた。

 

そのなかで生まれたのが歌やダンス、

演劇だった。

 

そうして演劇は人と人とを繋ぐ芸術となっていった。

 

戦争が止まらないこの時代にこそ

私たちはもう一度立ち止り、

人類の来し方に思いを馳せたい。

 

 

「知略革命」はこうして起きた

 

ゴリラやチンパンジーとの生存競争に敗れ

ジャングルから追い出された私たちヒトは、

 

その弱さ故に、

集団で寄り添いあって行動するための

コミュニケーション能力を育ててきた。

 

成長に時間のかかる子どもを守るためにも、

群で生活し、

 

互いに協力しあっていく必要があった。

 

おそらくそのために、

ホモ・サピエンスの登場以前から、

ヒトは「共感力」を発達させてきた。

 

ネアンデルタール人や、

その他にも世界中に棲息したとされる

私たちサピエンスの従兄弟たちも、

 

おそらく共感のための「踊る身体」と

「歌う身体」は獲得していた。

 

ここまでが前回も紹介した山極壽一氏の仮説だ。

 

 

 

 

さらに遅くとも二十万年前には、

人類は火を様々な形で利用していたようだから、

 

「たき火を囲む」といったコミュニケーションも、

この頃から始まっていたのだろう。

 

暖をとるためには、

人々はどうしても火に向かって

手をかざしただろうから。

 

だがこれら旧人たちとホモ・サピエンスの間には

一つの大きな隔たりがあった。

 

それが、これも前回も紹介した

「認知革命=虚構を共有する力の獲得」なのだが、

 

私はもう一つ、

現生人類には大きな社会的進化が

あったのではないかと考えている。

 

それは「謀をする力」だ。

「共感革命」「認知革命」に倣うなら

「謀略革命」といってもいい。

 

謀略が言い過ぎならば

「戦略革命」「知略革命」とでも言い換えようか。

 

 

かつてオーストラリア大陸に棲息していた

大型の動物たちは、

 

ホモ・サピエンスがこの大陸に移り住んだ

五万年ほど前から急速に姿を消し、

 

その多くが数万年で絶滅したと考えられている。

 

気候変動なども理由に挙げられるが、

現状、

私たちホモ・サピエンスによって

滅ぼされたという説が有力だ。

 

 

さらにアメリカ大陸には、

およそ一万四千年前に人類が到達し、

 

それからたった数千年で、

ほとんどの大型動物たちが絶滅していった。

 

 

道具(武器)の利用、

火の活用などホモ・サピエンスが

大型動物を絶滅させてしまった理由は様々だ。

 

 

特に私が面白いなと思ったのは、

私たちサピエンスの外見的な弱々しさも

理由だったという点だ。

 

か細い腕や足、

幼児のように体毛が薄く牙も角もない。

 

こんな、

まさに「人畜無害」に見える弱っちい生き物が、

 

後ろ手にこん棒を隠し持っていると

大型動物たちは夢にも思わなかった。

 

だから、

この新参者が近づいてきても、

サイやライオンたちは、

うさぎか鼠がじゃれついてきたくらいにしか

感じなかったのだろう。

 

「ヒトというのは凶暴で危ないものだ。

 

近づいたら逃げなければならない」という意識が

共有される以前に多くの種が殺されていった。

 

 

あっけなく殺された大型動物

 
 

ヨーロッパで車を運転していると、

高速道路でハリネズミが潰れているのをよく見かける。

 

ハリネズミは外敵が来たら

とにかく丸まるという習性を持っている。

 

それが彼らにとっての最大の防御だからだ。

 

ハリネズミが車を怖れるようになるまで、

あるいはアスファルトを嫌うハリネズミだけが

自然淘汰で残るまでには、

あと数万年はかかるのだろう。

 

サピエンスの社会的な進化に比べると

生物の進化は、

あまりにゆっくりとしている。

長らく生態系の頂点に君臨し、

さしたる天敵もなく、

また大型であるが故に相対的に

個体数の少なかった動物たちが大陸から

姿を消すのに時間はかからなかった。

 

オーストラリアに棲息した二、

三メートルもある大型有袋類、

北米大陸のアメリカライオン、

 

いまでは化石でしかみることの出来ない

こういった大型動物たちが、

あっけないほど簡単に、

ホモ・サピエンスに殺されていった。

 

 

さらに興味深いのは、

オーストラリア大陸における大型動物の

大量虐殺の速度と、

 

アメリカ大陸における速度にも差がある点だ。

 

もう一度、確認しよう。

 

ホモ・サピエンスがオーストラリアに渡ったのは

約五万年前。

 

この大陸の、

ほとんどの大型動物が死に絶えるのに

要した時間は数万年。

 

同じサピエンスがアラスカの地を踏んだのは

おおよそ一万四千年前。

 

そして同じような大量の絶滅が起こるのに

要した時間は数千年。

 

いったい、この間に何があったのか?

 

 

何より大きな社会的な進化は、

狩りの方法の進歩だったと考えられている。

 

アメリカ大陸に渡った彼らは、

すでにシベリアの巨大マンモスをおおかた駆逐していた。

 

その過程で、

ただ単に獲物を集団で追いかける狩猟方法から、

大型獣を挟み撃ちにしたり、

 

谷や崖に追い込んだり、

あるいは落とし穴のような罠を仕掛けたりという知略、

戦略が生まれてきた。

 

 

 

戦略的思考が爆発的に発達した

 

もちろん器具も発達した。

尖頭器と呼ばれる槍の穂先は、

多くの地域で出土している。

 

槍も、手に持って戦うものから投げ槍、

そして、より遠くに飛ばすための投槍器が生まれる。

 

矢をより遠くに飛ばす「弓矢」の発達も、

おおよそ、この時期からだと考えられる。

化石には残りにくいが火のついた槍を

発明した者もいただろう。

 

極寒のシベリアを踏破し、

当時は陸つづきだった現在の

ベーリング海峡を渡ってアラスカへと到達した

サピエンスは、

 

おそらくそれまでに、

火の制御の仕方が格段にうまくなっていたことは

想像に難くない。これも大きな要因だ。

 

 

また、

これまで尖頭器は主に投げ槍の

穂先と考えられていたが、

 

最近では落とし穴に鋭角の槍を仕込んでおいて、

そこに大型獣を追い落とし、

 

その自重によって傷つけるような

罠の一部だったという考えが有力になりつつある。

 

 

極寒の地を制覇したサピエンスは、

針と糸も発明した。

 

これは一番には衣服の発達に寄与したのだが、

 

もう一点、

この頃には獲物を捕らえるための

網も考え出されていただろう。

 

様々な道具を組み合わせ、

また人々が役割分担をしながら

戦略を持って大型動物を仕留める。

 

これはホモ・サピエンス以外には

行えない狩りの方法だ。

 

そして、私たちの祖先が大量虐殺をしたのは、

いわゆる大型哺乳類だけではない。

 

ホモ・サピエンスは、

私たちの従兄弟たち、ネアンデルタール人や

アジア全域に棲息していたとされる

デニソワ人などの旧人類も短期間に

絶滅させてしまった。

 

最近のDNAを使った研究では、

一部、

現生人類との交配の証拠も出てきてはいるが、

 

おそらく多くの場合は暴力的に

滅ぼされたのだろうと考えられている。

 

ここでも当然、

体格的には旧人に劣る私たちの祖先は、

様々な計略を使ったに違いない。

 

いや、私見では、

ネアンデルタール人などの相当知的な

旧人との接触を通して、

 

ホモ・サピエンスの戦略的思考は

さらに鍛えられたのだと思う。

 

 

<参考:平田オリザ>