赤面はなぜ起こる?
ダーウィンの仮説とは
顔が赤くなる現象は、
心理的に敏感になりやすい思春期において
多くの人が経験するものです。
また思春期にかぎらず、
大人になってからも時と場合によって赤面を経験したり、
日常的に赤面症に苦しんでいる方が少なくありません。
このように赤面は多くの人が経験しているにも関わらず、
「それが起こるために必要な認知能力が
解明されていない点で非常に興味深い現象です」
と研究主任の一人で、
発達心理学者のミリカ・ニコリック
(Milica Nikolic)氏は話します。
赤面に関する問題は非常に古く、
イギリスの著名な自然科学者である
ダーウィンの時代から議論されてきました。
ダーウィンはこの問題について、
「赤面は他人が自分のことを
どう思っているかを気にしたり、
考えるときに起こる現象である」と主張しています。
そこで研究チームは今回、
被験者に赤面を誘発させながら脳内スキャンをし、
赤面の誘発に関わっている
脳領域を特定することを試みました。
今回の実験では、
心理的に過敏であることが知られている
若い女性を対象としました。
実際に協力してもらったのは
16〜20歳までの女性40名です。
ニコリック氏は
「この年齢の女性たちは他人の意見に敏感で、
拒絶や間違った印象を与えることを不安がるため、
赤面を起こしやすいことが知られている」と話します。
そこでチームは彼女たちに2つの
実験セッションに参加してもらいました。
まず1つ目は「カラオケ実験」です。
ここでは女性たちにうまく歌うのが難しい曲
(※)をあえて歌ってもらい、
その様子をカメラで撮影しました。
(※ 例えば、映画『アナと雪の女王』の主題歌である
「Let It go」、アデルの「Hello」、
マライア・キャリーの
「All I Want For Christmas Is You」、
タトゥーの「All The Things She Said」など)
女性たちは何度も歌詞を間違ったり、
ぎこちない笑顔や神経質な声を出しています。
そして2つ目は「赤面誘導」です。
女性たちにはカラオケ実験から1週間後に
実験室に来てもらい、
自分自身がカラオケで歌っている
映像を見てもらいました。
またその映像の他に、
同じレベルで歌を歌った他の参加者の映像と、
参加者に扮して紛れ込んだプロの
シンガーの映像も見てもらっています。
また映像を見ている間は
両頬に温度センサーを貼り付けて赤面が
起こっているかどうかを記録。
それから参加者には
「今、他の参加者も別の場所で
あなたの歌っている映像を見ている」
と言って、
赤面を起こしやすい心理状態を促しています。
そしてこれらの実験はMRIスキャナーの中に
入った状態で行われ、
映像を見ている際の脳活動が
リアルタイムで測定されました。
では、
どの脳領域が赤面を引き起こしていたのでしょうか?
「他人からどう思われるか」は
無関係だった?
実験の結果、チームの予想通り、
女性たちは他の参加者のカラオケ映像より、
自分の歌っている映像を見ているときに
赤面しやすいことが観察されました。
ところが脳内スキャンのデータを見ると、
予想外の結果が見られています。
女性たちが赤面を起こしているときには、
近年の研究で感情的興奮の処理と関連している
「小脳」が活性化しており、
さらに資格情報を処理する
「視覚野」の活性化が確認されました。
これは彼女たちが自分自身のカラオケ歌唱の姿に
細心の注意を払っていることを示しています。
その一方で、ダーウィンが指摘していたように、
他人の感情や思考を推測し、
理解しようとする働きに関わる脳領域には
何の変化も見られなかったのです。
この結果からチームは、
赤面が起こるプロセスには
「他人がどう思っているか」を気にする脳活動は
関係していない可能性が高いと述べました。
そうではなく、
赤面は「自分で自分を認識する意識が
過剰に働いている」ことが
引き金になっていると考えられるようです。
「他人からどう思われているか」を
顔が赤くなっているときに
「他人がどう思っているか」を
気にすることは確かにあります。
しかし、
そこで気にしている「他人」というのは結局のところ、
自分自身が勝手な基準で作りあげた他人
(つまりは自分)であって、
本当に「誰かがどう思っているか」を
気にしているわけではないのではないでしょうか。
例えば、
私たちが「自分の失態を誰かに見られた気がする」
と思って赤面するとき、
その「他人の視線」の正体は実は
「自分の視線」であり、
自分で自分を監視する意識が
強まっているのかもしれません。
そうした自己認識の高まりが
小脳の感情的興奮の刺激反応を起こし、
顔が赤くなる現象につながるものと予想されます。
その一方で、チームは
「この結果はまだ慎重に解釈するべきである」
と述べています。
今回のような参加者の性別・年齢や赤面を
誘導する条件が限定されている状態では、
赤面に関わる脳の働きを完全に
解明したとは言えません。
そこでチームは今後、
幅広い年齢層や実験条件でのさらなる
調査を進めたいと考えています。
それによって得られた知見は、
赤面症に苦しむ方々の
助けともなるかもしれません。
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