多くの人の命を奪ってきた
「アテローム性動脈硬化症」
予防のカギはビタミンK1?
世界中で最も多くの命を奪っている病気、
それが心血管疾患(CVD)です。
中でも、
心筋梗塞や脳卒中を引き起こす
先進国において最も多い死因の1つとして知られています。

この疾患は、
動脈の内側に脂質やカルシウムが
沈着してできる「プラーク」が蓄積し、
血管が狭くなって血流が妨げられることで生じます。
そしてASVDの危険性は、
年齢や生活習慣、性別によっても大きく変化します。
特に高齢女性は、
閉経によって心臓を保護する女性ホルモンの
分泌が減少するため、
ASVDのリスクが一気に高まります。
では、
ASVDを予防する方法はあるのでしょうか。
近年では、
ビタミンK1の摂取が注目されています。
ビタミンK1は、ホウレンソウやケール、
ブロッコリーなどの緑の野菜に豊富に含まれ、
体内では血液の凝固に加え、
血管の石灰化(カルシウムの沈着)を
防ぐ働きがあると考えられています。
このメカニズムには、
ビタミンK依存性タンパク質が関与しており、
これがビタミンKの摂取によって
活性化されることで血管内にカルシウムが
蓄積するのを防ぎます。

そこで研究チームは「食生活、
特にビタミンK1の摂取が高齢女性のASVDの
発症や進行にどう影響するのか」を検討するため、
長期にわたる観察研究を実施しました。
研究では、
平均75歳のオーストラリア人
女性1436人を対象としました。
彼女たちの食生活は、
信頼性の高い食物摂取頻度質問票(FFQ)に
よって詳細に記録され、
1日あたりのビタミンK1摂取量が算出されました。
そして約14.5年間にわたり、
頸動脈の厚さ(動脈硬化の進行指標)や、
心筋梗塞・脳卒中などの重大な心血管イベント、
さらにはASVDによる入院・死亡リスクなどを、
西オーストラリア州の医療記録と
死亡記録を用いて追跡しました。
では、
ビタミンKの摂取とASVDにはどんな
関係があったでしょうか。
ビタミンK1を十分に摂取している
高齢女性はASVDの死亡率が
43%も低かった
調査の結果、
1日あたりのビタミンK1摂取量が最も多かった
グループ(中央値119μg/日)は、
最も少なかったグループ(49μg/日)に比べて、
頸動脈の厚さが約5.6%薄く、
動脈硬化の初期段階が抑制されていました。
また、
追跡期間中のASVDによる死亡率は、
ビタミンK1摂取量が多いグループで
43%も低下していました。
ビタミンK1を多く摂取する高齢女性では、
研究チームは次のように述べています。
「この研究では、オーストラリアの食事ガイドラインで
現在推奨されている量より、
約30%多くビタミンK1を摂取した女性は、
ASVDの長期リスクが低いと分かりました」
では、ビタミンK1を日々どれくらい、
どのように摂取すればよいのでしょうか?
実はそれほど難しくありません。
ビタミンK1の1日あたりの推奨摂取量は、
オーストラリアでは男性が70μg、
女性が60μgとされています。
(ちなみにアメリカの推奨摂取量は
アメリカでは男性が120μg、
女性が90μg。
日本は男女ともに150μg)
既に日本での推奨摂取量となっている
150μgを目指せば、
「オーストラリアの食事ガイドラインの
推奨量の約30%増」を簡単にクリアできます。
そして、
ビタミンK1は以下のように緑の葉物野菜に含まれています。
- 生のケール1カップ:472μg
- 生のホウレンソウ1カップ:145μg
- 調理済みブロッコリー半カップ:110μg
- 調理済み芽キャベツ半カップ:109μg
つまり、
1日あたり「生の葉物野菜1カップ」または
「茹で野菜の半カップ〜1カップ」程度を食べるだけで、
十分なビタミンK1を摂取でき、
心臓病による死亡リスクを大幅に
低減させられる可能性があるのです。
もちろん、
今回の研究には限界もあります。
食事の内容は自己申告によるものであり、
正確性に限界があります。
また、ビタミンK1のみが評価対象で、
他の栄養素との比較は行われていません。
さらに、対象が主に白人の高齢女性であるため、
若者や男性、
他の人種にそのまま当てはまるかは不明です。
それでもこの研究は、
簡単な食習慣の変更で命を守れる
可能性を示す貴重な一歩といえるでしょう。
今日から緑の葉物野菜を1カップ食べて、
健康な心臓を守っていくのはいかがでしょうか。
※ただし、
持病のある方は医師と相談すべきです。
<参考: >