問題の深刻さを知らない人のために説明すると、
マイクロプラスチックは地球上に住む
ほぼすべての人々の体内に存在すると言われている。
マイクロプラスチックは極地の氷のサンプルからも、
人間の陰茎の組織サンプルからも検出されており、
浸透の程度を示している。
こうしたプラスチック片が生殖器官や胎盤の
サンプルからも検出されていることから、
子どもたちは生まれる前から
プラスチックにさらされていると言えるだろう。
マイクロプラスチックやナノプラスチックが
人間にどの程度の害を及ぼすのかは
現在も議論の的となっており、
研究が進められている。
米食品医薬品局(FDA)は、
悪影響が判明した時点で
規制措置を講じるとしている。
人々がプラスチック製品を避けたがる理由は、
免疫細胞や神経細胞内に
小さなプラスチック片が入り込み、
遺伝子の発現に変化が及ぶことを
避けたいと考えているからだ。
確かにマイクロプラスチックの
利点は知られていない。
最近の研究では、
マイクロプラスチックの
「ありとあらゆる場所」への広がりと、
それが及ぼすさまざまな影響が議論されている。
例えばこれまでに、
マイクロプラスチックが腎機能障害や肝炎、
酸化ストレス、細胞毒性のほか、
遺伝子発現の変化やデオキシリボ核酸(DNA)
そのものの変化などを引き起こすことが確認されている。
筆者は、
マイクロプラスチックと精神衛生との間には
関連性があるのではないかと考えている。
単に脳内のプラスチックは有害だという
明らかな事実からだけではない。
確かにこれは事実だが、
筆者がここで言及しているのは、
マイクロプラスチックにより、
私たちの消化管の微生物叢(そう)が
細胞外小胞に及ぼしている干渉だ。
脳・腸・微生物軸と、
腸内フローラが神経機能に
及ぼす影響を考慮すると、
マイクロプラスチックが腸内環境を
変えることによって精神衛生に影響が及ぶ
可能性があることに気づくかもしれない。
気分が落ち込んだら、
牛乳の香りのアロマセラピーを試してみよう。
脳腸相関の障害によるうつ状態の
ラットで有望な結果が示されている。
歯科治療の材料には
多量のプラスチックが
歯医者に行くのが苦手な人は、
それを正当化する理由がある。
治療に使用する材料は歯科医院によって異なるが、
多くの場合、プラスチック製品や
プラスチック包装された製品が使われている。
例えば、
インプラントは性質上、
口内の日常的な使用による
摩耗や損傷を受けるため、
マイクロプラスチックが生成され、
体内に摂取されることになる。
研磨修復やセラミックの装着に伴う接着剤の使用、
矯正器具の装着など、
歯科医によるその他の処置もプラスチック粒子を
生成するものが多い。
私たちが毎日朝晩、
歯に直接当てて磨いているプラスチック製の歯ブラシの
繊維についても考えてみよう。
木の枝をかんで歯を磨いていた時代の
習慣に戻すべきだろうか?
キノコやエビの殻に含まれる成分が
体内のプラスチックを除去
キチンは、キノコのほか、
甲殻類や昆虫の外骨格に含まれる化合物だ。
キチンから簡単に作ることができるキトサンは
栄養補助食品として販売されており、
消費者が満腹感を得られるようにしつつ、
脂肪の吸収を阻害し、コレステロール値を
下げる働きがある。
また、傷の手当てにも適している。
私たちはキトサンの生産量を増やし、
主流にするべきだ。
なぜなら、
キトサンにはもう1つの重要な利点があるからだ。
新たな研究により、
キトサンがマイクロプラスチックを体内から
除去することが示されたのだ。
この研究は短期間ではあったが、
示唆に富むものだった。
今後、
人間の被験者を用いた長期にわたる
実験が期待される。
研究者らは、2つの重要な結論を提示した。
マイクロプラスチックはたとえ短期間の摂取であっても、
消化管に蓄積される。
特に小腸と大腸の間の袋状の部分である
盲腸にたまりやすい。
これらのプラスチックから化学物質が溶出し、
その粒子が最終的に体内に吸収されることを考えると、
この毒物が体内に蓄積する前に
排出する方が明らかに賢明だ。
実験では、
キトサンを含む餌を与えられたラットは、
他の群より多くのマイクロプラスチックを排せつした。
ラットが数日間で摂取した量より多くの
マイクロプラスチックを排せつしたことは興味深い。
これは、
キトサンが単に摂取した直後のマイクロプラスチックの
吸収を阻害するだけでなく、
最近摂取されたマイクロプラスチックの
腸管からの排出を促す可能性があることを示唆している。
さらに、
ラットを安楽死させ解剖した結果、
キトサンを与えられた群の結腸が最も軽かったことから、
排せつ物の蓄積自体が最も少なかったことが示された。
甲殻類やキノコに対するアレルギーがない限り、
キトサンを食事に添加する際の副作用は胃の不快感程度だ。
つまり、
合理的だと言えるだろう。
だが、これは医療上の助言ではない。
先述したように、
今後人間を対象とした長期的な研究が実施され、
より多くの情報が得られることを期待しよう。
とはいえ、
筆者はこの結果に興味をそそられている。
問題の解決より未然に防ぐ方法を
問題を解決しようとするより、
未然に防ぐ方が良い。
マイクロプラスチックはプラスチックから発生する。
これに対処する公的な取り組みはあるものの、
プラスチック産業は私たちの生活に欠かせないものであり、
自然に消滅することはない。
だが、
代替手段に積極的に投資することで、
社会全体の変化をもたらすことができる。
プラスチックは至る所に存在し、
消費者はそれを避ける現実的な選択肢を持っていない。
私たちはプラスチック容器に入った食品を
電子レンジで加熱するのを避けたり、
プラスチックで包装された商品を
買うのをやめたりする以上の対策を講じなければならない。
だが、
一度でも買い物に行ったことがある人なら、
これが不可能だと分かるだろう。
すべての商品がプラスチックで包装されているからだ。
現代社会に生きるということは、
廃棄物を生み出すことであり、
たとえ善意を持った人でも
腹を立てる以外にできることはほとんどない。
一般的に、
緑化屋根は雨水の貯留や空気と排水の浄化に効果的で、
これにより下水処理施設の負担を軽減する。
また、
都市の気温を下げ、ヒートアイランド
現象を緩和する役割を果たす。
シンガポールは長年、
この模範的な例を示してきた。
この慣行をあらゆる都市で
直ちに導入すべきもう1つの理由がある。
緑化屋根は、
マイクロプラスチックの除去に97.5%の
効果があることが認められているのだ。
太平洋ごみベルトの
清掃は有効か?
すでに捨てられたプラスチックを取り除けば、
純粋な利益が得られる。
太平洋ごみベルト
(訳注:北太平洋の海洋ごみが集積している海域)の
清掃という大規模な取り組みを巡っては、
これに伴う温室効果ガスの排出や
海洋生物への影響を考慮すると、
何が最適な方法なのかは分からない。
かつて廃棄タイヤを利用したサンゴ礁の
修復構想が進められたように、
太平洋ごみベルトを放置して、
その上にサンゴ礁が形成されることを
期待するというのも一理あるかもしれない。
だが、オランダの環境保護団体
オーシャンクリーンアップの比較分析では、
行動を起こすことによる影響は一部あるものの、
何もしないことによる影響の方が
はるかに深刻であることが示された。
放出された物質がマイクロプラスチックや
ナノプラスチックに分解し続ける前に
可能な限り除去する積極的な措置は、
長期的な環境保全には有効な戦略だ。
提示されたシナリオでは、
こうした積極的な措置により、
プラスチック汚染の水準が安全限度とされる
基準以下にまで低下する。
行動を起こさない方が、
長期的には高いコストを伴うことになる。
複雑な問題は、
単純な方法では解決できない。
プラスチックを別の物質に
完全に置き換えることはできないが、
使用方法を見直し、
害を軽減するための新たな戦略を練ることはできる。
これらの戦略が有効であることが証明されれば、
それを幅広く適用していくべきだ。