地球の生物には「左手型」の
アミノ酸しかないのはなぜなのか
小惑星ベンヌのアミノ酸を
分析してわかったこととは?

生体分子に必須なアミノ酸は、
分子の中心にある炭素原子に、
アミノ基・カルボキシ基・水素・側鎖という
官能基が結合した構造です。
アミノ酸は化学構造の配置により
「左手型」と「右手型」がありますが、
地球の生命は共通して左手型の
アミノ酸のみを持っています。
「生命のアミノ酸が左手型のみの理由」は
正確にはわかっていませんが、
地球近傍小惑星のベンヌの破片を調べた結果、
左手型アミノ酸についてこれまでの予測を覆す
驚くべき結果が出たことが報告されています。

小惑星ベンヌは1999年に発見された
平均直径560メートルほどの天体で、
200年ほどの間に何度も地球に接近し、
最悪の場合は衝突する可能性すら
あると言われています。
一方で、
ベンヌは地球に衝突する危険性だけではなく、
貴重な資源や研究資料を採取できる
天体としても注目されています。
地球に衝突するかもしれない小惑星「ベンヌ」を
探査機で調査すべき10の理由とは?

査読付き科学ジャーナルの
Nature Astronomyで2025年1月に
発表された論文では、
ベンヌのサンプルに含まれる
有機分子を分析しています。
ベンヌは太陽系が形成された時から
存在している天体とされており、
ベンヌを形成する有機化合物を特定することで、
初期の太陽系の形成と進化の間に
起こったプロセスを理解できると考えられています。
研究では、
ベンヌから採取した岩石とチリを水と酸で煮沸し、
有機化合物を抽出しました。
その後、質量分析法を用いて、
生命がタンパク質を作るために使う
20種のアミノ酸のうち14種を含む
有機分子を特定しています。
過去の研究では、
地球に飛来した隕石(いんせき)には
右手型のアミノ酸と比べて左手型アミノ酸は
約1.6倍の量が含まれており、
左手型の割合が多いことが報告されていました。
それらの研究結果から、
地球の生命に含まれるのは
左手型のアミノ酸のみである理由は、
「太陽系に左手型のアミノ酸が多い」
からだと推測されていました。
しかし、
ベンヌから採取したサンプルを分析した結果、
左手型のアミノ酸と右手型のアミノ酸が
ほぼ同じように混在していることが発見されました。
論文の主著者であるダニエル・グラビン氏は
「人類の最も永続的な疑問を
解明するためベンヌを研究しましたが、
『初期の太陽系は左手型のアミノ酸を好み、
その成分を原始的な地球にもたらした』
という有力な仮説の1つを支持するどころか、
覆す形の発見になりました。
正直に言うと、少し幻滅し、失望しました。
私たちの研究室での20年間の研究と
私のキャリアが無駄になったように感じました」
と発見の意外性を語りました。

グラビン氏は、隕石に関するこれまでの研究は、
地面に落ちた際に地球のタンパク質が
混ざって純粋な研究サンプルでは
なくなっていたのではないかと考えています。
また、アメリカ初の試みであるサンプルリターンが
達成されたオシリス・レックス計画の
プロジェクト科学者であるジェイソン・ドウォーキン氏は、
ベンヌの分析結果がこれまでの隕石研究や
事前の推測と違うものであった理由について、
「ベンヌは、地球に落下して
形を保っていることができない、
もろいタイプの小惑星です。
そのため、
これまでの研究対象には
入っていないのだと思います」と
考えを述べています。