2024/12/20

地球で「生命が誕生した」3つのシナリオ…じつは、そのどれもが「海と切っても切り離せなかった」

 
 
 
 
 
 
 
 
 

地球で「生命が誕生した」

3つのシナリオ…

じつは、そのどれもが

「海と切っても切り離せなかった」

 
 
 

地球という惑星の進化は、

水のはたらきを抜きにしては語ることができません。

 

 

じつは、水は地球の表層だけではなく、

プレートテクトニクスと共に、

地球の内部に取り込まれ、

地質学的なスケールで大循環しています。

 

しかも、

今後6億年で、

 

海の水はすべて地球内部に吸収され、

海は消失してしまうという、

 

驚きの最新研究もあります。

 

 

「水」を地球規模のスケールで解説した

水の惑星「地球」

46億年の大循環から地球をみるから、

興味深いトピックをご紹介していくシリーズ。

 

 

地球の歴史を振り返りながら、

「水」が地球の環境のなかで、

どのような働きをしているのかを見ていきます。

 

今回は、

生命誕生の起源の3つの説を検証しながら、

 

そのいずれもの説であろうとも

「海」が大きく関わっていた、

 

という、

「生命と水」の深い関係を考えていきます。

 

 

 

【書影】水の惑星「地球」

 

 

生命は海の中から

 
 

地球上のいかなる生命にも

多くの水が含まれるように、

 

液体である水の存在は生命活動にとって

必須な条件といえます。

 

また、

生命と海の成分が似ていることからも、

生命が海から誕生したことに間違いはなさそうです。

 

原始の地球では、

太陽風や宇宙線によって高エネルギー粒子が

地表にバンバン降り注いでいましたが、

 

液体の水はそれらを反射するため、

海のなかは初期生命にとって

居心地がよかったに違いありません。

 

 

といっても海のそこかしこで

生命が誕生したのではなく、

 

原料となる物質や反応を促進する

条件が整った環境が必要となります。

 

 

そのような生命誕生の場として

有力な候補が2つあります

(図「生命誕生に関する3つの説」)。

 

 

 

【図】生命誕生に関する3つの説
 
生命誕生に関する3つの説 

 

 

一つは深海の熱水噴出孔です。

 

太陽光のあたらない深海底では、

現在も海水と岩石の反応をエネルギー源とする

独立栄養微生物が生存しています。

 

 

もう一つは陸上の温泉地帯です。

 

陸域での脱水縮合によってできる有機物が集まった、

温泉のような場所から生命が誕生したとの考えです。

 

 

生命誕生の場としてどちらの説が正しいのか、

まだ決着がついていない重要な問題です。

 

 

ここでは、

それぞれの考えを簡単に紹介したいと思います。

 

 

それ以外にも、

生命は地球上で誕生したのではなく、

どこか他の惑星で生まれたものが地球に運ばれ、

進化していったとの考えもあります。

 

パンスペルミア説とよばれるものです。

 

もしそうだとしたら、

宇宙は生命にあふれているということになります。

 

そんなことを言ったらなんでも

ありな気がしなくもありませんが、

 

否定することも難しいです。

 

この仮説もその後の

生命の進化の舞台は海となるのです。

 

 

深海の熱水噴出孔にすむ

初期生命

 
 

海底には中央海嶺とよばれる大山脈が広がり、

そこではマグマが現在もつくられています。

 

マグマが冷え固まっても、

熱を持った岩石が海水と反応することで、

熱水には岩石中のいろいろな成分が溶け込みます。

 

 

 

中央海嶺付近の海底では、

そのような熱水がところどころ

海底から湧き出している

熱水噴出孔がみられます

(写真「熱水噴出孔」)。

 

 

その水深は2000mくらいで、

光のまったく届かない

深海の暗闇のなかなのですが、

 

熱水噴出孔の周りには

驚くほど多くの生物が生息しています。

 

 

小さな微生物から、エビやカニ、イソギンチャク、

チューブワームなど多様な、

 

そして独特な生態系が

熱水噴出孔の周辺に確認され、

新種の生物も次々とみつかっています。

 

 

 

【写真】熱水噴出孔
 
熱水噴出孔 
 
 
 
 
 
 
何を栄養としているのか
 
 

光の届かない深海で、

これらの生命は何を栄養としているのでしょうか。

 

 

熱水には硫化水素やメタンなど

還元的な物質が含まれ、

 

深海の生命はそれらの物質を

酸化するときに生じる化学エネルギーを利用しています。

 

深海にいるメタン菌や鉄酸化細菌などは、

化学反応から有機物をつくる独立栄養微生物です。

 

 

また、

熱水噴出孔にいるエビやチューブワームなどは、

それら生態系の一次生産者を食べたり

飼ったりしてエネルギーを獲得しているのです。

 

 

熱水噴出孔にいる一次生産者の

独立栄養微生物のなかには、

 

超好熱アーキア(古細菌)もみつかっています。

 

超好熱性のアーキアは

生命の系統樹の根っこにいることも、

 

生命が海底の熱水噴出孔で

誕生した可能性を後押ししています。

 

 

 

【写真】光の届かない深海にある熱水噴出孔周辺の様子
 
光の届かない深海にある熱水噴出孔周辺の様子 

 

 

原始の地球で、マグマオーシャンが

冷え固まって海ができはじめた頃、

 

海底のマグマ活動は今とは

比べ物にならないくらい活発だったと考えられます。

 

そのような時代には、

海底のあちこちで熱水噴出孔から

熱水が湧き出ていたことでしょう。

 

熱水噴出孔から水素や

二酸化炭素が常に供給され、

 

鉱物表面や金属元素を触媒として

有機物の合成が進み、

 

なかには高分子など複雑化して

いったものもあるかもしれません。

 

 

生命の材料がそろった環境で、

熱水からは硫化水素やメタンなどの

還元的な物質が絶え間なく届き、

 

原始的な化学合成生物の誕生にとっては

格好の環境だったといえます。

 

 

しかし、

生命が深海の熱水噴出孔で

誕生したという説には

一つ大きな問題点があります。

 

 

それは、

有機物が合体して複雑化していくには

水が邪魔になるのです。

 

 

アミノ酸が合体してタンパク質をつくるのは

脱水反応であって、

 

反応により水分子を吐き出す必要があります。

 

そのため、

有機物の化学進化は水の中では起きにくく、

乾燥状態が必要だと考えられるのです。

 

 

そこで登場するのが、

次の陸上温泉説です。

 

 

 

陸上の温泉地帯は

生命にとって都合がいい

 
 
 

生命の誕生には水がないといけませんが、

ありすぎても困るため、

 

適度に乾燥したり水が供給されたりする

陸上の温泉地帯や干潟のような場所が

最適だという考えです。

 

 

 

温泉地帯や干潟の水たまりでは、

蒸発乾燥することで

有機物の脱水縮合が進むとともに、

 

有機物が濃集した原始のスープのなかから

生命が誕生したという考えです

(図「陸上温泉地帯での乾燥と加水の繰り返し」)。

 

 

温泉に行くと、

浴槽がヌメヌメしていたり、

析出物が付着していたりします。

 

それらは、

微生物の集まりやその分泌物からできているように、

 

温泉の水に溶けている成分を食べる

好熱性の微生物がわんさか集まっています。

 

 

海水の組成はナトリウムが

カリウムよりも多いのに対し、

 

生物ではナトリウムとカリウムが同程度、

もしくはカリウムのほうが多い場合があります。

 

温泉地帯の蒸気にはカリウムが多く含まれることもあります。

 

そのような蒸気が冷却され水が溜まったところは、

化学組成的にも生命の組成に近くなると考えられています。

 

 

また、

大陸の岩石には生命の必須元素である

リンが多く含まれます。

 

岩石の化学風化によってリンが溶け出し、

陸地の水たまりに多く供給されることも、

 

陸上温泉説が深海熱水説より

有利な点として挙げられます。

【 図】陸上温泉地帯での乾燥と加水の繰り返し
 
陸上温泉地帯での乾燥と加水の繰り返し
 

 

 

といっても、

陸上温泉説の問題もないわけではありません。

 

約45億年前に海ができてから

40億年前に陸ができはじめるまでに

約5億年もあります。

 

 

そのあいだに生命進化が

何も起きなかったとは考えにくいです。

 

また、大陸ができはじめた頃は、

陸地はほんの少ししかなかったため、

生命誕生の場は限定的で、

 

その後の爆発的な発展に

貢献できたかは微妙なところです。

 

 

深海熱水説の問題であった

有機物の脱水縮合は、

 

二酸化炭素が超臨界状態になると

解決できるとのモデルもあります。

 

 

また、

海底の地層の中にはすき間がたくさんあって、

 

そのようなところで地層が圧密を受けて

有機物が合体する可能性も指摘されています。

 

 

実際、

掘削船によって海底を掘ってみると、

地層の中には様々な有機物や

微生物がたくさんみつかります。

 

 

生命の誕生がどちらの場なのか、

それともそのどちらもなのか、

現在も議論が続いています。

 

  

<参考:片山 郁夫