2024/10/19
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じつは、 複製されるDNAには 「決して優劣が存在しない」 という衝撃の事実 |
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とても、コピーなどというレベルではない…じつは、複製されるDNAには「決して優劣が存在しない」という衝撃の事実美しい二重らせん構造に隠された 「生命最大の謎」を解く! DNAは、 生物や一部のウイルス(DNAウイルス)に特有の、 いわゆる生物の〈設計図〉の 一つといわれています。
DNAの情報は「遺伝子」とよばれ、 その情報によって生命の維持に 必須なタンパク質やRNAが作られます。
それゆえに、 DNAは「遺伝子の本体である」と言われます。
しかし、 ほんとうに生物の設計図という 役割しか担っていないのでしょうか。
そもそもDNAは、 いったいどのようにしてこの 地球上に誕生したのでしょうか。
世代をつなぐための最重要物質でありながら、 細胞の内外でダイナミックな ふるまいを見せるDNA。
その本質を探究する極上の生命科学ミステリー 『DNAとはなんだろう』から、 DNAの見方が一変するトピックをご紹介しましょう。
コロナ禍で注目が高まった 「ウイルスの複製」 「ハリー・ポッター」シリーズに出てくる 魔法の一つに「双子の呪文」というものがあり、
その呪いをかけられた物に触れると、 次々にそれが「複製」され、 指数的に数が増えて困ったことになる。
これは物語の世界の話だが、じつは今、 人間社会はこの「複製」に大いに 苦しめられている。
いうまでもなく、ウイルスの「複製」である。
あまたあるウイルスのなかでも、 なんといっても新型コロナウイルスの複製が、 この数年間、 世界中の人間たちの最大関心事になってきた。
ウイルスにおいては「複製」というより、 「拡散」とか「感染爆発」などの別の 言葉で言い表されることが多いが、
そのありさまはまぎれもなく、 大量の新型コロナウイルスの 「複製」に他ならない。
そしてその「複製」を、 分子の視点でみごとに体現しているのが DNAだ(新型コロナウイルスの場合はRNA)。
DNAはいったい、どのように複製し、 遺伝情報を世代から世代へと 引き継いでいるのだろう。
ウイルスとは「複製するもの」僕は実験を主とする自然科学の研究者だが、 一方で、 世の中の「複製」という現象にも幅広く興味をもち、
世界中のさまざまな「複製」に焦点を当てて、 その意味を探ったりしている。
世界が複製でできているんだったら、 その根源たる生物の世界が 複製でできているのは当然であろう。
ウイルスの基本的な形は、 核酸(DNAもしくはRNA)にタンパク質の 殻(カプシド)がまとわりついて、
核酸を保護しているというものである (図「ウイルスの基本的な形」左)。
この基本形に、 脂質二重層(細胞膜と同じもの)でできた 「エンベロープ」とよばれる膜が付加されたりして、 それぞれのウイルスに固有の形ができあがる。
ウイルスによってはカプシドがなく、 RNAだけからなるものもいる (図「ウイルスの基本的な形」右)。
要するにウイルスの複製は、 DNAもしくはRNAの複製という性質を、 そのまま体現したものであるともいえる。
ウイルスの基本的な形。 実際には、 核酸に直接カプシドが 巻きつくような形のものもある
さらにいうならば、 ある細胞がウイルスに感染すると、 その細胞内でウイルスが大量に複製され、
それがまた次の細胞に感染し……、 ということを繰り返すことから、
ウイルスは「ウイルス感染細胞」 次々に複製していくものであるともいえる。
まるで、水木しげるが描いた 妖怪「猛霊八惨(もうれいやっさん)」が、
海で水死した人を猛霊八惨に変えることで、 次々に仲間を増やしていくがごとくである。
複製がもつ「二つの意味」複製とは実際、どのような現象なのか。
複製には、複製するという「行為」を示す場合と、
その行為によってできた「産物」 (コピーされた文書など)を示す場合の、 2つの意味がある。
複製という言葉によくある一般的なイメージは、 「モナ・リザの複製」などのように、
きわめて価値の高い 「オリジナル」があったときの、 その「コピー」だろう。
複製という行為によって オリジナルからつくられるコピー。
そしてコピーの側には、 オリジナルほどの価値は認められない。
これが、 よくある複製のイメージではないだろうか。
DNAの複製という場合、 その意味するところは前者である。
つまり、複製する「行為」を指すということだ。
さらに、 オリジナルとコピーというステレオタイプな 複製のイメージとは、 やや異なる事情もある。
オリジナルとコピー オリジナルとコピーには、 先ほども述べたように、
前者には大いなる価値があり、 後者の価値はそれよりも低いという関係がある。
こうした関係は、 生物やウイルスにおける複製にはあてはまらない。
DNAは確かに複製されるが、 複製されてできた2つのDNAには、 決して優劣は存在しないからである。
言い換えると、 あるオリジナルのDNAが複製されたとして、
その結果できた二つのDNAの 「どちらがオリジナルでどちらがコピーか」 を区別することができないということである。
オリジナルから新たなオリジナルが つくられるのがDNAの複製
要するに、DNAの複製は、 オリジナルが複製されると
「新たなオリジナルが2本できる」 というタイプの複製なのであって、
決して「1本のオリジナルから、 1本あるいは複数のコピーができる」 というタイプの複製ではない。
DNAの複製はコピーをつくることではなく、 「同じものをつくる。
そしてあわよくば増やす」 ことを目的としたものだからである。
DNA複製の「生物学的意味」生物もウイルスも、その生きざまは、 自分と同じ種類の個体を「増やす」 ことを目的にしているように見える。
なぜ「増やす」のかというと、 タンパク質や核酸などの生体高分子が 織りなす細胞や個体は “有限の命”しかもたず、
その命が尽きる前に次の世代の 個体をつくらなければならないからである。
結果的にはそれは「増える」のではなく、
同じ種類の個体(いわゆる「種」と よばれるものの構成員)が、
別の個体をつくることで、 古い個体が死んでも種全体としては その数が「維持される」、
ということになる。
個体の数を維持するために増やすのである。
それがゆえに、 次世代の個体をつくるための 遺伝情報が書き込まれたDNAを、
細胞を分裂させて増やすのと同時に、 その内部で複製していくのだ。
DNAの複製には、 機密文書をコピーして 会議のメンバーに配るのとは まったく質の異なる、
壮大な生物学的意味が含まれている。
「増える(あるいは維持する)」 という生物の複製の仕方は、
たとえ最初に「オリジナル」 というものが存在したとしても、
つくられるのは決してその「コピー」ではない。
オリジナルと同等の 「別のオリジナル」が新たにつくられる、 そういう複製でなくてはならないのである。
DNAの複製は「きわめて正確」そんなわけで、 本当の意味で「複製」というからには、
「誰が見てもオリジナルと瓜二つ」というか、 「どこから見ても同一」であるかのように、
そのコピー、 すなわち「新たなオリジナル」をつくりあげる 必要がある。
その点において、 DNAの複製は完璧に見える。
先の記事で紹介したように、 DNAは2本のDNA鎖
(ヌクレオチドが複数つながっているので 「ポリヌクレオチド鎖」ともいう)が、
塩基対を介して抱き合うように結びついた 二重らせん構造を呈している。
DNAが複製するためにはまず、 この抱き合った2本のポリヌクレオチド鎖を 1本ずつに引き離し、
それぞれのポリヌクレオチド鎖を 「複製のための鋳型」として 利用できるようにしなければならない。
それを担うのが、 「ヘリカーゼ」とよばれる酵素である。
ヘリカーゼの最初のはたらきは、 いわばDNA二重らせんの一部に「穴」を 開けるようなものである。
そこから折り曲げた紙をハサミで すーっと切り開いていくようにして、
DNAの2本鎖を1本ずつに引き離していく (図「ヘリカーゼによる[引き離し]と DNAポリメラーゼによる[復元]」)。
ヘリカーゼによる[引き離し]と DNAポリメラーゼによる[復元]
それとほぼ同時に、 ヘリカーゼと行動をともにしている 「DNAポリメラーゼ」が、
鋳型となる塩基配列に対してきちんとした ワトソン・クリック塩基対をつくりあげるように、
相補的に対面できる 塩基が含まれるヌクレオチドを、 1個ずつ置いていく。
DNAポリメラーゼには、 「なにか(ヌクレオチド)を重合して(ポリメライズ)、
DNAをつくる酵素」という意味があり、
名は体を表すという 言葉どおりのことをやってのける。
こうして、 ヘリカーゼによってほどかれた元の塩基配列が、
DNAポリメラーゼによって 2本の二重らせんとして「復元」されるのである (図「ヘリカーゼによる[引き離し]と DNAポリメラーゼによる[復元]」)。
DNA複製の正確さは、 鋳型の塩基に対して相補的な塩基をもつ ヌクレオチドがきちんとその対面に置かれて、
正しい塩基対をつくることが できるかどうかにかかっている。
実際、 DNAポリメラーゼは、それができるのである。
正確な複製をになうDNAポリミラーゼ。
続いては、 このDNAポリメラーゼの構造と 驚異的なはたらきについての 解説をお届けします。
果たしてほんとうに〈生物の設計図〉か?
DNAの見方が変わる、 極上の生命科学ミステリー!
世代をつなぐための最重要物質でありながら、 細胞の内外でダイナミックなふるまいを 見せるDNA。
果たして、 生命にとってDNAとはなんなのか?
<参考: 武村 政春 >
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