2025/2/15

この地球には「海しかなかった」はず。なら「どうやって大陸ができたのか」…東京の南方にある海洋火山島がほどいた「謎」

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

この地球には「海しかなかった」はず。

なら「どうやって大陸ができたのか」…

東京の南方にある

海洋火山島がほどいた「謎」

 
 
 

田村 芳彦


 
 

地球深部の高圧下では

海洋地殻の材料となる玄武岩質マグマが、

 

浅部の低圧下では大陸地殻の材料となる

安山岩質マグマが生成する。

 

インタビュー前編では、

レートの動きと連動してマントルが溶け、

マグマをつくり火山から噴出する過程までを、

岩石学者の田村芳彦氏に解説頂いた。

 

 

しかし、

田村氏の興味関心の的は

「如何にして大陸ができるのか」という点である。

 

実は、

地球科学者は長きにわたり

「大陸がなければ大陸ができない」

というジレンマに悩まされていた。

 

 

田村氏は、

ある島の地質学的な特殊性から、

そのジレンマを解消する仮説を

導き出すことに成功した。

 

 

なぜ、

大陸の誕生にジレンマが存在するのか、

そのジレンマを解消した説はどのようなものか。

 

引き続き、田村氏に話を聞いた。

 

 

【書影】大陸の誕生

 

「大陸がなければ大陸ができない」

というジレンマ

 

 

田村芳彦氏(以下、田村)

伊豆大島や三宅島、

八丈島などの海洋島の火山からは、

玄武岩質マグマが噴出しています。

 

一方、本州の火山から噴出するマグマは、

安山岩質マグマです。

 

 

従来の常識では、

分厚い大陸地殻上の火山では

大陸地殻の材料となる安山岩質マグマが噴出する、

 

地殻が薄い海洋島からは海洋地殻の

材料となる玄武岩質マグマが噴出する、

 

と考えられていました。

 

しかし、

これでは「大陸地殻がなければ

大陸地殻を構成する安山岩質マグマが

得られない」ということになります。

 

 

太古の地球には、

大陸がありませんでした。

 

海しかない地球にどうやって大陸ができたのか。

 

海しかなければ、

玄武岩しか得られないではないか。

そんなジレンマが存在していました。

 

 

そのジレンマも、

今では解決しつつあるようですね。

 

 

田村:はい。まず、

大陸の火山から噴出する安山岩質マグマは、

どうやらもともとあった(大陸地殻を構成していた

安山岩が再融解して生じていることがわかってきました。

 

岩石の組織を見ると、

再融解して凝固したことは一目瞭然です。

 

 

また、八丈島や三宅島の火山からは、

玄武岩質マグマが噴出していますが、

すべての海洋島がそうではありません。

 

さらに南方にある西之島では、

安山岩質マグマが噴出しています。

 

いずれも、

同じプレートの沈み込み帯で活動する火山ですが、

この火山列は北と南で構造が異なります。

 

西之島周辺の海洋地殻の厚さは、

八丈島や三宅島周辺と比較して、

薄いのです。

 

 

 

【写真】2024年12月時点での西之島
 
海上保安庁が撮影した
2024年12月時点での西之島 

 

 

従来の常識では、

大陸地殻からは安山岩質マグマが、

海洋地殻からは玄武岩質マグマが

噴出すると考えられてきた、

という話をしました。

 

しかし、

海洋地殻上にある西之島から

安山岩質マグマが噴出していることは、

従来の常識が誤っていることを示唆しています。

 

 

噴出するマグマの組成を決めるのは、

圧力、すなわち深さである、

 

ということを前編で説明しました。

 

とすると、

海洋地殻の下のマントルでも地殻が薄ければ、

安山岩質マグマが生成しても不思議ではありません。

 

これは、

西之島周辺の海洋地殻が周囲と比較して

浅いという事実に矛盾しません。

 

 

太古の地球では、

海洋地殻で覆われていたと考えられています。

 

海洋地殻から安山岩質マグマができる環境だったのです。

 

 

「西之島は何かがおかしい」の意味

 
 

書籍に書かれていた

「西之島は何かがおかしい」というのは、

「海洋地殻から安山岩質マグマ噴出している」

ということだったのですね。

 

 

田村:そうです。

1974年に行われた西之島の調査結果から、

どうやら西之島が安山岩質マグマを

噴いているようだと言われていました。

 

 

2013年11月20日に、

西之島付近の海上で水蒸気爆発が確認され、

新しい陸地が形成されていることも明らかになりました。

 

2015年6月に、

私は調査船に乗って西之島に接近し、

潜水ロボットを用いて島周辺の

海底のサンプルを採取しました。

 

 

これらのサンプルもやはり安山岩質のものばかりで、

「何かがおかしい」と私は直観しました。

 

 

今回の書籍の第4章のタイトルは

「西之島は大陸の卵か?」です。

西之島は大陸の卵なのでしょうか。

 

 

田島:「卵」と言っても、

それが羽化して成長して大陸になる、

というイメージではありません。

 

 

西之島の薄い海洋地殻の下で、

比較的低圧の条件でマントルが溶け、

大陸地殻の材料である安山岩質マグマが生成します。

 

西之島は、

安山岩質マグマを噴出し、

安山岩質の島として成長していきます。

 

西之島自体は、大陸の「材料」なのです。

 

 

西之島が成長して、

ある程度地殻が厚くなると、

マントルにかかる圧力が高くなり、

噴出するマグマは玄武岩質になります。

 

現在、玄武岩質マグマを噴出させている

伊豆大島や八丈島も、

かつては地殻が薄く、

安山岩質マグマを噴いていたと考えられます。

 

 

伊豆大島や八丈島ではかつて、

大陸の材料がつくられていました。

 

そして、今、その役割を担っているのが西之島です。

 

 

大陸の材料である伊豆大島や八丈島、

 

そして西之島は、

海洋プレートとともに北上していき、

やがて日本列島に衝突し「陸」を形成するのです。

 

 

「いま、大陸の材料作りを担っているのが
 
西之島なのです」
 
 

本州に衝突するときには、

 

西之島は玄武岩質の溶岩で覆われている、

ということですね。

 

その玄武岩質の溶岩は、

衝突時どうなるのですか。

 

 

田村:現在、

八丈島や三宅島で噴出しているマグマは、

全て玄武岩質マグマです。

 

島及び周辺の地殻の厚さも30km程度あります。

 

八丈島や三宅島表面の玄武岩質溶岩の下には、

「中部地殻」と呼ばれる安山岩質溶岩の層があります。

 

その下に、

下部地殻と呼ばれる玄武岩質マグマの層があり、

さらにその下がマントルです。

 

 

中部地殻は、

伊豆から小笠原まで連続して存在しています。

 

西之島の地殻も、

やがては同様の構造になることが予測されます。

 

 

さて、

玄武岩質溶岩に覆われた西之島が

本州と衝突するとどうなるのか、

考えてみましょう。

 

 

下部地殻は玄武岩質溶岩で

高密度であることが特徴です。

 

中部地殻から引きはがされて、

フィリピン海プレートと一緒に沈み込んでいきます。

 

中部地殻よりも上の地殻は、

衝突により本州側に付加されて集積していきます。

 

一番上の玄武岩質の上部地殻も、

安山岩質の中部地殻と一緒に付加されていくのです。

 

中部地殻は衝突により沈み込むため、

再融解して付加されていきます。

 

このときに、

大陸地殻が完成します。

 

 

 

 

松島沿岸部に浮かぶ

浦戸諸島にある

「興味深い地層」

 
 

今後の研究で実現したい夢や

目標がありましたら、教えてください。

 

 

田村:私が所属するJAMSTECには、

これまでの研究で採取された世界中の

海洋底の岩石が1万5000点以上、

 

重さにして15トン以上、

アーカイブされています。

 

 

アーカイブされた岩石は、

既に一度は分析済です。

 

しかし、

新しい分析手法や新しいアイディアで、

再度スポットライトを当てて研究していく

必要がある試料もふくまれています。

 

これは、到底、

私一人でできることではありません。

 

JAMSTECが保有する岩石を知ってもらうため、

様々なサイエンス系のイベントに

積極的に出展しています。

 

日本中の大学や研究機関の方々に、

JAMSTECの岩石を研究する必要性を理解してもらい、

 

研究にご協力いただけるような

道筋をつくりたいと思っています。

 

 

もう一つやりたいことは、

宮城県の松島の知名度向上に

貢献したいと考えています。

 

 

松島は日本三景として有名ですが、

その沿岸部に浮かぶ浦戸諸島に興味深い

地層があることは、

 

あまり知られていません。

 

松島の白くて美しい景観や、

浦戸諸島の地層は、

1500万年前の海底火山の噴火によってできた

大量の軽石によってつくられています。

 

 

浦戸諸島では、

同じ一つの海底火山がつくった地層の

一部が綺麗な状態で海上に露出しています。

 

私は大学生の頃から海底火山の研究をしていますが、

非常に珍しい地層だと思っています。

 

 

 

【写真】宮戸島にある大高森から見る浦戸諸島の島々
 
古くから眺望での地として有名な宮城県・
宮戸島にある大高森から見る松島・浦戸諸島の島々 

 

 

今は、文部科学省が指定する

スーパーサイエンスハイスクール(SSH)である

宮城県立多賀城高校の生徒たちに、

松島と浦戸諸島の地質構造を紹介する活動をしています。

 

 

ゆくゆくは、

松島とその周辺の地層が、

ジオパークとして認定されるといいな、

と思っています。

 

 

高校生をはじめ、

いろいろな人に浦戸諸島の

地層の奥深さを知って頂き、

 

地質学、岩石学に興味を持ってもらえれば、

とても嬉しいです。

 

 

<参考:>