ヒトゲノムの43%を占める
「動く遺伝子」と老化との関
地球は10万年~2万年のスケールで
氷期と間氷期を繰り返している。
ヒトはそうした大きな環境変化に順応しながら
命を永らえてきたが、
なぜそのようなことができたのか?
その理由のひとつとして
「動く遺伝子(転移遺伝子)」の
存在があるからと言われている。
動く遺伝子とはかつてはジャンク遺伝子と呼ばれ、
ゴミのような扱いを受けてきた遺伝子のこと。
その後の研究で、
ダイナミックな環境の変化に順応するため、
遺伝子の一角の塩基配列を丸ごと変え、
ゲノム構造を変化させることがわかった。
それはまるで遺伝子が動いているかのように
見えることから「トランスポゾン」と呼ばれている。
ちなみにヒトの遺伝子は、
DNAが全体の2%程度で、
動く遺伝子が43%。
残りはその残骸、
未解明なものと言われている。
トランスポゾンの話を進めるにあたって、
改めてゲノム、染色体、遺伝子、
DNAの関係についておさらいをしておきたい。
そもそもヒトはおよそ60兆個(37兆個との説もある)
の細胞でできている。
細胞ひとつひとつには細胞核があり、
その中に遺伝情報が刻まれた
DNA(デオキシリボ核酸)が入っている。
DNAは2重らせん構造をしたひも状の物質で、
A(アデニン)、T(チミン)、G(グアニン)、C(シトシン)の
4種類の塩基が並んでいる。
ヒトは細胞内に60億塩基対のDNAを持っているが、
この塩基の並び方の一部でも
変わると病気になることがある。
DNAは細胞内でヒストンと呼ばれる
棒状のタンパク質に巻き付いた
複合体(ヌクレオーソム)を作っている。
それが巻き取られたのがクロマチンで、
規則正しく折りたためたものを染色体と呼ぶ。
ヌクレオーソムにおけるヒストンは
アセチル化(アセチル基が付与されること)を受けると、
ヌクレオーソムが緩んで転写が活発する。
DNAが遺伝情報として働くためには、
一部がRNAに転写されてさらにタンパク質に
「翻訳」されなければならない。
翻訳とはDNAの並びをタンパク質を作る
アミノ酸の並びに変換することを言う。
DNA上でタンパク質に翻訳される領域が
遺伝子(DNAの2~5%程度)で、
ヒトはおよそ2万個の遺伝子があるとされる。
一部の例外を除いて1人の体の細胞は
すべて同じDNAを持つが、
細胞の種類によって転写・翻訳される遺伝子の
組み合わせが異なることで、
肝臓で肝細胞になったり、
神経細胞になったりする。
ただし、
遺伝子領域はすべてタンパク質に
翻訳されるわけではない。
翻訳される部分をエクソンといい、
翻訳されない部分をイントロンという。
転写されるときは、
まず未成熟のメッセンジャーRNA(mRNA)として
全体が転写され、
その後、
スプライシングと呼ばれる仕組みにより、
イントロンが切り離されて
エクソン同士がつなぎあわされ、
成熟mRNAとなる。その後、
ようやくタンパク質へ翻訳されるのだ。
動く遺伝子であるトランスポゾンの数や
割合は生物ごとに異なり、
数%~80%とばらつきがある。
普段は眠っているこの遺伝子は、
活性化することでDNAの塩基配列を変えるため、
突然変異の原因となり、
生物進化を促すものと考えられている。
トランスポゾンは特定のDNAの断片を切り出し、
別の場所に再挿入することで移動する。
DNAトランスポゾンとレトロトランスポゾンに大別され、
前者は自身のDNA配列を切り出して
別のゲノムDNA配列に挿入する、
カット&ペースト式で移動する。
後者は、
自身の配列をRNAに一度転写してからDNAを作り、
それをゲノムの別の場所に挿入する
コピー&ペースト方式で移動する。
ただし、
多くの哺乳類はDNAトランスポゾンの
機能を失っていることがわかっている。
ヒトのレトロトランスポゾンが活性化することで
環境の大きな変化に順応する一方で、
DNAの損傷につながり、
病気を発症するケースがあることもわかっている。
現在、
その数は血友病、先天性の疾患、
がんなど120種類を越えると報告されている。
では、レトロトランスポゾンは
老化とどのような関りがあるのか。
ハーバード大学医学部&ソルボンヌ大学医学部
客員教授の根来秀行医師がいう。
「老化細胞は炎症性サイトカインやケモカイン、
細胞外マトリックス分解酵素などを分泌する
SASPによって周囲の組織に慢性炎症を誘導し、
加齢性疾患を引き起こすがことがわかっています。
老化細胞内の分子の動きは前期と後期とで変わり、
老化初期ではレトロトランスポゾンから
産生されたメッセンジャーRNAのレベルは低いため、
SASPには影響を及ぼしません。
しかし、
老化後期になると
レトロトランスポゾンDNAが増加するため、
これがインターフェロンαや
インターフェロンβをコードするIFN遺伝子群の
転写につながり、
これらのインターフェロンタンパク質が
SASPに関与します」