2024/11/23

人類によって生み出された「人工元素」は何種類あるか…「驚きの生成方法」と「意外な目的」

 
 
 
 
 
 
 
 

人類によって生み出された

「人工元素」は何種類あるか…

「驚きの生成方法」と

「意外な目的」

 
 

138億年前、

点にも満たない極小のエネルギーの塊から

この宇宙は誕生した。

 

そこから物質、地球、生命が生まれ、

私たちの存在に至る。

 

しかし、ふと冷静になって考えると、

誰も見たことがない「宇宙の起源」をどのように

解明するというのか、

という疑問がわかないだろうか?

 

 

 

本連載では、

第一線の研究者たちが基礎から最先端までを

徹底的に解説した『宇宙と物質の起源』より、

宇宙の大いなる謎解きにご案内しよう。

 

 

 

 
『宇宙と物質の起源』

 

 

 
 

前の記事で、宇宙のすべてのものが

素粒子でできていることを紹介しました。

 

一方で、私たちになじみのある性質が現れるのは、

原子という単位からであることにも触れました。

 

原子は、

現在までに118種類が知られており、

そのうち天然に存在するのは94種類です。

 

 

本記事では、

さまざまな性質をもった原子(元素)が、

宇宙の歴史の中でどのように生まれたのか、

を考えます。

 

 

 

 

 

あらゆる物質は、原子でできています。

 

その原子は、陽子や中性子でつくられた原子核と、

周囲を取り巻く電子から成り立っています。

 

陽子と中性子は、

原子核をつくる粒子なので「核子」と呼ばれます。

 

陽子の電荷はプラス1なので、

電荷がマイナス1である電子の数は、

足し合わせた電荷がゼロとなるように決まります。

すなわち「陽子の数=取り巻く電子の数」です。

 

 

この原子のもつ陽子の総数、

陽子数のことを「原子番号」とも呼びます。

 

原子番号が変われば束縛される電子数も変わるので、

それに応じて原子同士のつながり方が変わり、

さまざまな分子が形成されます。

 

このような原子の化学的性質を表すために、

異なる原子番号ごとに「元素」という

言葉が当てはめられました。

 

ちなみに原子核に含まれる中性子は、

元素の化学的性質には関わりがありません。

 

 

 

原子の成り立ちとは…

 
 

中性子をそれぞれ0個、1個、2個含んだ、

水素、重水素、三重水素という同位体があります。

 

水素の元素記号はH。

同位体を構成する陽子と中性子の個数の和を

「質量数」と呼び、同位体を区別して表現するときは、

元素記号の左肩に質量数を記入します。

 

水素、重水素、三重水素は、

¹H、²H、³Hと書きます。

 

「図:水素原子と重水素原子の

構造と質量・大きさ・電荷」に、

 

同位体である

水素原子と重水素原子の構造と質量、

大きさ、電荷をまとめました。

 

 

 

 
水素原子と重水素原子の
 
構造と質量・大きさ・電荷
 
 
 
 
 
その質量は陽子と電子の質量の和、
 
大きさは10<sup>-</sup>¹⁰m、電荷は中性です。
 
 
 
重水素原子は陽子と中性子と電子からできていて、
 
その質量は3つの粒子の質量の和です。
 
 
大きさは水素とほとんど同じで、
 
電荷は中性です。
 
 
 

電子は、質量が陽子の2000分の1、

大きさは10<sup>-</sup>¹⁸mより小さいと考えられています。

 

 

電荷はマイナス1価です。

陽子は質量が1.7×10<sup>-</sup>²⁷キログラム、

大きさは1.7×10<sup>-</sup>¹⁵m、電荷はプラス1価です。

 

中性子は、

質量も大きさも陽子とほぼ同じで、

電荷は中性です。

 

水素(H)や鉄(Fe)、鉛(Pb)など、

天然には94種類の元素があります。

 

地上には150万種もの動植物が暮らしていますが、

 

生物に限らずすべての物質が、

これらの元素の組み合わせで

できていることになります。

 

 

原子についての理解が進んでいなかった

古代エジプト時代から20世紀初頭までの長い間、

 

変色せず加工性に富んだ金(Au)を

他の物質からつくる(変換する)錬金術と

いう試みが盛んに行われました。

 

しかし、

企てはことごとく失敗。

 

元素の変換に初めて成功したのは、

ラザフォード博士でした。

 

 

ラザフォード博士は1919年に、

アルファ(α)粒子(質量数4のヘリウム

[⁴He]原子核の別の呼び名です)を

窒素(¹⁴N)に照射すると、

陽子(p)が飛び出してくることを発見したのです。

 

このとき、

窒素が酸素(¹⁷O)に変換されました。

元素の変換とは、

 

原子核が異なる原子核へと変化したこと、

すなわち原子核に反応が起きたことを指しています。

 

この反応を「原子核反応」と呼び、

 

¹⁴N+⁴He→¹⁷O+p

と表します。

 

矢印の左側に反応前の原子核、

右側に反応後の原子核が示されています。

 

 

人工元素はどうやって

作られるか

 
 

原子核を高速で他の原子核にぶつければ、

原子核反応を起こせることがわかりました。

 

そこで効率的に反応を起こして

原子核を研究するために、

原子核を高速に加速する

加速器の開発が始まりました。

 

 

 

イタリア出身のアメリカで活躍した

エミリオ・セグレ博士は1936年、

 

アメリカのアーネスト・ローレンス博士によって

発明されたばかりのサイクロトロンという

加速器を使って重水素(²H)を加速し、

 

原子番号42のモリブデン(Mo)に

照射するという実験を行いました。

 

その結果、

地上では当時見つけられなかった

43番元素のテクネチウム(Tc)を発見しました。

 

この元素名の由来となったテクネトスは、

ギリシャ語で「人工の」という意味があります。

 

人工的に生成された元素にふさわしい名前ですね。

 

 

 

 
 
エミリオ・セグレ(1905~1989)
 
 
 
 
 
61番元素のプロメチウム(Pm)と
 
85番元素のアスタチン(At)、
 
および93番元素のネプツニウム(Np)から
 
118番元素のオガネソン(Og)までの
 
29種類の元素が、
 
人類によって生み出されました。
 
 
 
ただし、
 
テクネチウム、プロメチウム、アスタチン、ネプツニウム、
 
94番元素のプルトニウム(Pu)は、
 
後の研究で微量ながらも地上に
 
存在していることが明らかになりました。
 
 
 

地上にはない原子番号の大きな元素は

どこまで存在するのか、

 

その原子核はどのような構造なのか。

 

その謎を解明するために人類が生み出した元素は、

現時点で95番のアメリシウム(Am)から

118番元素のオガネソンまでの24種類です。

 

その中の1つ、

理化学研究所の森田浩介博士を中心とする

研究グループが生み出した113番元素は、

2016年にニホニウム(Nh)と名付けられました。

 

 

 <参考:>